第3話

 興奮をいっぱいにした無職の行動は速かった。


『あい、もしもし?』


「鈴木太郎、あいつ指名手配犯だってー!!」


『っるっせえよ、何だよそのテンション!』


「あ、すまん。ちょっと色々ありすぎておかしくなってた」


 かけた相手は勿論、旧友の菅平だ。

 もともと夜にまた通話する予定を立てていたのだが、状況が一変したため19時という少し早い時間となり。


「なあ、今からそっち行ってもいい?」


『は? んだよ急に、取り調べの後ですげえ疲れてんだけど』


「いや、しっかりと話したいし。それに今ちょうど駅だからさ」


『そう言って、明日も仕事だろ』


「クビになった」


『おう、そうか。奢らねえし泊めねえからな』


「期待してなかったけどさぁ」


 慣れた口調で突き放すのは違うだろ、と言いたげに口を尖らせる。


「でもよ、鈴木太郎がよ。懸賞金1000万だって」


『いっっ!?』


「マジ笑えるよな。旧友ダチの振りして近付いて警察に突き出すだけで、山田センセの仇討ちついでに大金貰んだぜ。スガと山分けしても、辞めずに働いた俺の年収2年分なんだぜ」


『去年のアフィ収入が50万だったから……10年分じゃん』


「お前よくそれで生きていけるな」


『こどおじ許してもらってっからな』


「へいへい、親ガチャSRエスレア羨ましいですね」


 そういつも通り返し、続ける。


「ってわけで、500万入ってくるなら日高屋なんざ安いもんだろ」


『だな。とりあえず、オレも色々話しときたいことあるし』


「オーケー、すぐ向かう。どうせ無職なって暇だ、あと2週間は大丈夫だしな」


『その根性、逆に尊敬するわ。んじゃいつも通り舟木駅集合で』


 おうよ、と軽く返しながら、電子マネーにクシャクシャの1000円札を入金した。


〜〜〜〜〜〜


「よっ」


「おう」


 駅で挨拶をかわした菅平は、昨日よりも少しやつれていた。


「……タラオが殺されたの、家の近くだったのか」


「それも含めて日高屋で話そうぜ。まだ飯食ってねえだろ」


「2日続けて中華そばってのもなぁ」


「オレだって偶にはニラレバ炒め定食食いてえよ。けど贅沢も言ってらんねえだろ」


「そうだよ、なぁぁ。俺なんかクビになって、あと2週間の命だし」


 そう萎れながらも入店し、流れるように中華そばを2つ注文した。

 もちろん貧乏人たちは、酒の代わりにセルフサービスのお冷やでの乾杯だ。


「とりあえず、だ。鈴木太郎のことだけど」


「それ。待ってるときに見たけどよ、マジで1000万なんだな」


「連続殺人ってあったけど。山田センセだけじゃねえのかよ」


「お前来るとき調べなかったのか?」


「え、電車は寝るか漫画アプリ読むかだろ」


「はぁぁ」


 これで大丈夫なのかよ、と菅平が髪をクシャクシャと掻く。


「どうやら、2年前に実の母もやっちまってるらしい。それが明るみになったのも山田のことがあってから、だってよ」


「マジかよ……よくそんなの知ってたな」


「ニュース見ねえからこうなるんだよ。則夫が亡くなったばっかだってのに」


 まあ分かっちゃいたけどと言いたげに表情を切り替え、菅平は普段の飄々とした様子をひそめて神妙な面持ちへと変える。


「で、だ。凶器はどっちもナイフらしい。そして重要なのがここからだ」


「……タラオの死因も同じ?」


「ご明察。そして、今日の取り調べで聞いた事と合わせたオレの予想……いや、ほぼ確定と言っていいだろう」


 ゴクリと息を呑み、名探偵の推察に耳を傾ける。



「ッ!?」


 狩人になろうとしていたはずが、逆に狩られるかもしれない。

 興奮が一気に恐怖へと反転し、落合の脊髄を伝った。

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