第17話 退役軍人は機関銃を斬る

 私は鼻歌を歌いながら、機関銃のある庭へ向かって行きました。


 そんな私を見た、アレックスの私兵たちも動揺している様でした。


 それもそのはずです。


 四人と1匹で来たはずが、庭に入って来たのはライダースーツを来た男だけで、他のメンバーは後ろで壁の端から覗き込む様にして見ているのですから、それに全員がマスクで顔を覆っているとあってはさらに疑問が出てくるでしょう。


 マスクに関しては、監視カメラに映らない様になど理由を説明しましたが、それらの理由の他にも大切な部分がありました。


 それは、殴り込みで現場に入る際には、顔を隠してから襲撃しろと言うスラム地区のジンクスの様なものがありました。


 私自身、育ての親である情報屋から教えてもらったのですが、襲撃をされる事はあってもこちらからやると言う事はあまり無かったのでマスクをつけて行く機会は少なかったです。


 スラム地区では、監視カメラが付いていない事と最初から顔を隠さなくても襲撃前に隠せばいいだろうと言う、スラム地区出身者特有の適当さの様な物が混じってできた物だと思います。


 そんな、実利的な理由とジンクスと言う抽象的な理由でマスクをつけて襲撃を行う事にしていました。


 流石にアンバーにはジンクスの方は言いませんでした。


 そんな狂った流儀をどんなふうに説明したらいいか分からなかったからです。


 そんな事を考えながら私は機関銃の射手と他の私兵達にも聞こえる様に話しかけました。


「すみません。私達はアレックス・アトラス氏がアトラス重工の社長とその奥様の亡くなられた事故に関係していると言う証拠が出て来たのでその真偽を確かめる為にこちらに来ました。アレックス氏にお会いしたいのですが可能でしょうか?」


 とても機関銃の前でする様な会話ではありませんが一応言っておかなければ行けません。


 やはり大義名分があった方が戦う際のモチベーションにも影響が有りますし、アンバー自身も気負う必要がないからです。


 あくまでもこちらが襲われたので防衛として戦ったと言う形にしたいと考えています。


「おいアンタこの状況が分かってねえのか?これを見ろよ、機関銃だぜ。その銃口だってアンタに向いてるんだ。蜂の巣になりたくなかったらとっととあのガキをこっちによこしな。それにこの状況でわざわざアレックス様が出て来て話なんかすると思ってんのか?」


「ええ理解してますよ。こちらとしても一応言わなくてはいけないから言っただけです」


「それに私としては機関銃と戦いたいのです。それにアレックス氏に今出てこられてしまっては、機関銃と戦う事ができなくなってしまう上に私達のボーナスも無くなってしまう。そんな理由で私達もむしろ戦う事になった方が良いのですよ」


 射手の男はインカムから何か指示が来たようでそれを聞いた後、好戦的な笑みを浮かべて言った。


「ああそうかよ。じゃあアンタを撃ち殺した後、アンタの仲間も撃ち殺して、その後ガキを捕まえてやるよ」


 そう言って、射手の男は機関銃をいつでも乱射できるように準備をし、射手の護衛の男二人も射手を守るように近づいていました。


 私のついに夢にまで見た瞬間が近づいて来ました。


 研究所では、私を機関銃で撃ってみてくれないかと頼んでも笑われて断られるだけでした。


 今になって思えば、能力を身につけたばかりで、そんな死ぬかも知れない事をされては使った費用を回収出来ないから困ると言う事だったのだと思いますが、当時の私はそれが不満でした。


 機関銃で撃たれて、死に掛けた過去の私の恐怖を乗り越える為にもこの場で機関銃との戦いが必要なのです。


 私はゴーグルをつけた後、機関銃の射手にスタートを告げてもらう為に言いました。


「すみませんがそちらから一発撃ってもらえませんか?あなたが撃ち始めたら私も動き始めますので、よろしくお願いしますね」


 相手はその言葉を聞いて顔を真っ赤にして怒って、叫びながら機関銃を乱射し始めました。


 まあ相手からしたら、自分が圧倒的に優位な状況なのに煽るような事を言われれば怒るのは当然です。


「テメェ舐めやがって。とっとと蜂の巣になって死ねや!」


 むしろ油断をしたままで戦われてしまったらこちらとしても満足が出来ません。


 機関銃と戦う機会なんてもう無いかも知れないのですから。


 能力を発動した時、こちらに飛んでくる銃弾は全て止まっている様に見えました。


 兵士時代の頃とは全く違いました。


 あの頃は機関銃が火を吹いた瞬間、私の身体を銃弾が貫通していました。


 でも今は、銃弾をゆっくりと避けて行く事が可能になっていました。


 皆がいる所に流れ弾が飛んで行かないように避ける事も可能でした。


 ある程度の間、銃弾を避け続けて私が当たる事が無いと確信を持ち始めた頃、射手の男が叫びました。


「なんで当たらねえんだ。こっちは機関銃なんだばら撒いてりゃ一発ぐらい当たるはずだろ」 


 この叫びを聞いた後、私は射手に斬り込みに行こうと考えました。


 本当は機関銃を斬ってやりたかったのですが、暴発で怪我をしてしまったら笑えないので、諦めました。


 銃弾が飛び交う中私は加速した世界の中で射手の元へ近づいて行きました。


 護衛の二人が反応するよりも早く、斬りつけました。


 二人が斬られて倒れる前にトドメを刺しました。


 その様子を見て射手の男が叫びました。


「おい!どうした!テメェはなんで……」


 射手が叫び終わる前に斬りつけ二度と話す事ができない様になりました。


 射手がいなくなった機関銃を最後に斬りつけ真っ二つにしました。


 機関銃との戦いに勝った達成感から私は叫びました。


「やったぞ!俺の勝ちだ!機関銃に勝ったぞ!これであんな悪夢なんか終わりだ!」


 私は育ての親である情報屋の教えの一つだった、粗野な喋り方ではなく、丁寧な話し方がスラム地区以外では悪印象を持たれないから、丁寧な話し方を心がけろと言う教えを忘れて、ハイテンションで叫び続けていました。


 

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