第16話 退役軍人達は殴り込みに行く

 アレックス・アトラス邸。


 アトラス重工の役員である彼の家は富裕地区の中でも豪華な方に位置し広い庭に3階建ての大豪邸がそこにはあった。


 その場所に今日な集団が集まっていた。


 その四人と1匹は、一人はライダースーツを着て刀を持った男で二人目は半袖のシャツと短パンで友達の家に遊びに来た様な女、三人目はまるで物語の魔法使いの様なローブ型の耐火服を来た女、四人目は目が見えない人がつけるサングラスをつけた少女とそれにつきそう黒い毛並みが特徴的な盲導犬。


 富裕地区をうろつくにしては妙な集まりだった。


「データで見たことはありましたがやっぱり実物も大きいですね。こんなに広いと掃除も大変そうだ」


「まあ。そんな豪邸も私達が暴れる所為でボロボロになっちまうけどな」


「能力の使いすぎで火事を起こさない様に気をつけます」


「みなさん本当に楽しそうですね」


「ええ。依頼料の他にお金が手に入るということはとても魅力的ですからね。それに戦争中に手術や受けてやっと使えると思った時には終戦していたので、思いっ切り能力を使ってみたかったというのもあります。自分たちの性能を証明出来る機会は滅多にありませんからね」


「別にアンバーさんの安全な事を忘れている訳ではありませんよ。安全のためにファイターさんは大勢の敵の目を惹きつけ、フレイムさんは監視カメラの破壊と停止。そして私はバレットと一緒に貴女の護衛とアレックスの元へのエスコートをするのですから」


「アンバーの安全のためにも沢山暴れて注目されないとな。それに全力で戦っても壊れない奴が出て来てくれるなら大歓迎だ」


 ファイターは好戦的な笑みを浮かべながら言った。


「私も火事を起こさない限り、好きにしていいという事なので全力で能力を使っていきますよ」


 フレイムも楽しそうになんでもない事を話す様な口振りで、恐ろしい事を言い放った。


 彼女が自分の能力を完全にコントロール出来ているのは、知っているのだが、その能力の恐ろしさを知っていると安全だとしても恐ろしいと感じてしまうのだ。


「そういえば聞き忘れたいましたが、どの様に襲撃をしていくのですか?」


「それは勿論分かりやすい正面から堂々と襲撃を仕掛けます。外から攻撃をすると一目に高すぎるのでアレックス邸の中を戦場にします」


 そう言って私は、アレックス邸のインターフォンを鳴らしました。


 要件を聞いて来たインターフォン越しの声に誰が来たのかわかる様にカメラ前にアンバーを立たせた後に答えました。


「こちらのアンバーさんがアレックスさんに両親の事故に着いて聞きたいことがあるそうです。それと8本腕の男に会いに来たぞとお伝えください」


「少々お待ちください」


 そう言ってインターフォンは切られました。


「これで8本腕の男が居なかったら、恥ずかしいですね。」


「それにしてここの外壁はすごいですね、越えるのは道具がないと難しいですし、銃撃戦が起きても弾が外へ出るなんてことはなさそうだ」


「何より。私達が大暴れしても音が外の人たちに気付かれないというところがいいです。きっと悪事がバレないためにやっているんでしょうが私達にとっても有利に働いてくれて良かったです」

 

「どうぞお入りください」


 そう言われたと同時にアレックス邸の正門が開きました。


「では最初に私が庭全体を確認して来ます」


 そう言って私はゴーグルをつけた後スピードを上げて庭を見回しにいきました。


「転んで気付かれるなよー」


 ファイターの声が伸びて聞こえました。


 庭は情報通りに広い場所でしたがアレックスの私兵はほとんどいませんでした。


 むしろ建物の中に潜んで庭にいる私達に襲撃をかけアンバーを捕まえるチャンスを狙っている様でした。


 そして庭の中心にはどういう訳か機関銃が一丁置かれており、射手一人とその護衛の合計三人の男がいました。


 私は家に機関銃が置いてある環境に疑問を持ちましたがそれ以上に私の夢を叶える事が出来るのではないかと期待に胸を膨らませていました。


 庭全体を見回って他に気になるものが無かったので戻る事にしました。


「皆さん大変です。機関銃が、あの機関銃が庭に置いてありましたよ。これは大発見ですよ。」


 機関銃発見の喜びのままにハイテンションで話している私に皆が微妙な顔をしていました。


「いや。機関銃がヤバいのはわかるけどよ。あんたなら普通に避けて、撃ってる奴を斬れば終わりじゃないのか?それになんかテンションがおかしいぞ、何か薬をやってる訳じゃないよな。これから襲撃なのにラリっていられると困るんだが」


「そうですよ。機関銃の何があなたをそこまでおかしくさせているんですか」


「すみません……。私の夢が叶うかもしれないと思ったら興奮してしまいまして、機関銃以外は建物の中にいる様です。おそらく機関銃で脅してアンバーさんを捕える気なのでしょう」


「まあ。アンバーさんを渡しても私達は機関銃で蜂の巣にされてしまうでしょうが」


 私が機関銃を見て興奮していたのには理由があります。


 それは私が手術を受ける原因が機関銃にあったからです。


 私は兵士をしていた頃、機関銃の掃射によって重傷を負いました。


 手術を受けて復帰した暁にはあの憎らしい機関銃の弾を避けて、逆に撃ち殺してやろうと考えていたのですが、戦場に出る前に戦争が終わってしまいました。


 その所為か、機関銃で撃たれて穴だらけになる夢を見る様になってしまいました。


 しかし、それも今日までここで機関銃に勝つと言う私の夢を叶える事が出来れば悪夢も見ないし、いい気分になれると思うと興奮が抑えられなくなってしまうのです。


「すみません。今回の取り分とは関係がないのですが、機関銃の相手は私にさせて頂けないでしょうか、あの憎いアイツをぶっ壊してやりたいのです」


「うん……。いいよ。私だと辿り着く前に撃たれるから、最初から頼む予定だったし」


「どうぞ。私も炎だけどはどうやっても勝てないので譲ります」


「ありがとうございます!では奴を倒しに行って来ます。皆さんも私の勇姿を見ていてくださいね」


 そう言って私はマスクをつけてから庭の中央に向かっていきました。


「あのスピードさん本当に大丈夫ですかね?」


「多分大丈夫だよ。お客と話す時は威圧感を出さないために腰が低い話し方をするけど、アイツもスラム地区出身だからたまにあんな話し方になるだけだよ。でも私もあんなにテンションが高いのは初めて見たよ。一体機関銃にどんな思い出があるんだろうか」


「じゃあ私たちもマスクをつけて、流れ弾がこなさそうなところでスピードさんの戦いを観戦しましょう」


「あのすみません。本当にマスクは必要なんですか?堂々と行くなら必要ないのでは?」


「必要だよ。カメラに映るのもまずいけどそれが外部に漏れるのはさらにまずい。アンバーの場合は社長になるんだから人違いだと言える様な状況を作って置くべきだ。仇討ちをしたらパッシングが原因で社長から下されましたなんて事になったら笑えないだろ」


『では、なぜ私もこんなマスクをつける事になったのだ。私なら犬なのだから似た様な犬も沢山いるのだからそれで誤魔化せないのか?』


「いえ。バレットの場合は仲間はずれにするのは可哀想だったのと犬用のマスクもあるよと言われたので貰って来ただけです。一応遠目に見れば犬種は分かりませんよ」


『……私の扱い雑じゃないか』


 話しながら、三人と1匹はマスクをつけてアレックス邸に乗り込んで行きました。

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