第14話 退役軍人は殴り込みについて語る
事務所に帰って来た私が見たのは奇妙な光景でした。
事務所の中には死んだ目をしたフレイムが椅子に座っていて、テーブルの上には黒いマスクが五つ置かれていました。
置いてあるマスクは、私達が見た襲撃犯がつけていた様なマスクで、顔をすっぽりと覆えるマスクでした。
その内一つは人間用ではないようで材質が違い、明かりに反射してテラテラと光っていました。
おそらくゴム製のマスクのようでした。
「戻りましたフレイムさん。死んだ目をしていますがどうかしましたか。それにこのマスク達はなんですか、もしかして私達で王位継承戦をする感じですか。いいですね私は誰役をやりましょうか」
上機嫌で帰ってそのままのノリで、話しかけましたがフレイムの目は死んだままで答えを返してくれませんでした。
このままどうしようかと考えていた時、フレイムは話始めました。
「このマスクは依頼で必要になるだろうと思って、今日の仕事先の人から貰いました。殴り込みに行くならやっぱり必要ですからね。私が落ち込んでいるのは今日の仕事が原因です」
「あのアンドリュー・フィルムからの依頼でしたからね」
私はその会社の名前を聞いて彼女が死んだ目をしている理由に納得しました。
アンドリュー・フィルムは主にAV、それも際物ばかりを撮影している事務所でなんだかんだそれが人に受けているようで、たまに人手が足りなかったりでスタッフの真似事や機械の代わりなどの仕事が私達に待ってくる事があるのです。
仕事の割に給料が高いと言う利点があるため私達は仕事を断れずにいました。
私の仕事の時は、撮影に使う機械の電力が足らないと言う理由からランニングマシン型の発電機で電力を送り続けるという仕事でした。
正直、撮影の横で延々と走り続けているというのは狂気の絵面でした。
その上、出来上がったものを見てみたら、私が電力を送っていた機械が動くシーンは全てカットされていました。
まあ、ちゃんとお金は振り込まれていたのですが、なんとも言えない気持ちにその時はなりました。
彼女もきっと自分の能力を使った作業をしていたのでしょう、撮影中の声を聞きながら無心で、それが使われるかは知りませんが。
「あの会社の仕事でしたか、本当にお疲れ様です。それにマスクもありがとうございます。なかったら証拠のデータを調べた後買いに行こうと考えていたので」
「スピードさん。質問なのですがなんでマスクが必要なんですか?」
「アンバーさんそんなの決まっているじゃないですか。犯人がわかった際、相手に襲撃をかけるためですよ」
「待ってください。マスクしていても容姿や能力を使っているところが監視カメラに写っていたら、すぐにバレてしまいませんか?」
「そこは大丈夫ですよ。カメラは基本壊して行きますし、能力が原因でバレるということはほぼありません。似たような能力を持っている人は何人もいますので、能力だけを根拠に捕らえるのは不可能です」
アンバーは何を言っているんだという顔で私をみていました。
「アンバーさんは、戦争が終わってしばらく後に帰還兵の就職についてのニュースがよく出ていたことを知っていますか?」
「はい。実際に見た事はありませんが、そういうニュースがあったというのは何かの記事で見た事があります。そのニュースが何か関係があるのですか?」
「はい。帰還兵のニュースばかり扱われていたのはある問題を隠すためのものだったからです。私達の様な改造を受けた兵士達をどの様に扱うか、という問題についての会議を行っていました」
「人間の限界を軽く超える様な兵士達が自分達の近くにいるという事。その上彼らの気分次第で簡単に殺されてしまうかもしれない。問題は本当にできてしまうという事でした。そんな状態で市民がいるところに改造した兵士を帰すわけにはいけないという問題でした」
「改造した兵士達の能力を使えなくするという方法も考えられましたが結局は不可能に近いという事で諦められました。薬で能力を抑えるという方法もありましたが、改造された兵士の能力はかなりの数あったので、一つ一つに合わせた薬を作るというのは予算と期間の両方の面でも不可能でした」
「他にも処分すればいいと言う過激な意見もありましたが、その意見はすぐに潰されました。改造した兵士にバレた場合。反撃に出られたら被害がとても大きいからです。それに戦争が終わったのに大規模な軍事活動や兵器の使用がバレてしまえば、批判の的になってしまいますからね」
「最後には、改造手術をしてついた能力なら、手術で能力を取り出せばいいと言う意見も出て来ましたが、その意見は、先程言った処分と大差ないということで断られました」
「考えてみてください。一部を改造した様な人ならまだ、機械のパーツで補えばいいかもしれません。しかし私達の様な全身を改造した人間の場合はどうなるか」
「筋肉や骨を全て取った後、じゃあ後は頑張ってくださいと言って返されてしまってはたまったものじゃありません」
「本当に軍の人たちが生きたまま人間から肉や骨を引っ剥がすことを了承しないでくれて助かりました」
「この様に色々話し合った結果。私達は生きて帰ってくる事ができました。しかし軍は何もせずに私達を帰したわけではなかったのです。私達は定期的にメンテナンスを受けなくてはいけません。そこに軍は目をつけました。メンテナンスを受けれる施設は軍と関わりのある施設になっています」
「軍としては、改造した兵士たちのデータを集める事が出来る上に首輪をつける事が出来るので、問題はありませんでした」
現在は、軍とは関係ないメンテナンス施設なんて物も出て来ているそうですが、噂だけで実物を見た事はありません。
「軍の人達もこれで問題なく進んでいくと思っていたのでしょうが思いもしないところから問題が飛び込んできました」
「それは、人権団体の存在でした。どこで知ったのかは分かりませんが改造された人間の権利について軍に対して抗議を始めました」
「軍はどう言う理由か分かりませんが、人権団体の意見を飲んでいました。その結果、改造された人間の能力が似ているというだけでは逮捕できないという、頭の悪い法律ができてしまいました」
「話している私も人権団体が何をしたかったのかは分かりませんが少なくとも今回の殴り込みには便利なのでそこは感謝しています」
「それはなんというか、頭の悪いと言うかある意味すごい法律があるんですね」
アンバーは今まで学んで来た知識とは違う情報に驚きとどうしてそんな法律が出来るんだという呆れながら言いました。
「でも安心してください。別に何をしても許されると言うわけではありません。新都中央保管所での私達の様に捕まって証拠を作られてしまったら、逮捕される可能性もあります。」
「それに私達の様に荒事を生業とする帰還兵も多くいるので依頼をして捕まえようとする場合もあります。そんな時は大体生死を問わないので、狙われたらおしまいです」
「まあ。こんな法律のおかげで私達は殴り込みをしても捕まってしまわなければ無罪の清い身でいれますからね。マスクが必要なのはカメラに顔が映ってしまうのを避けるためです。わかっていただけますか?」
「ええ。分かりました。そのもう一つ質問をいいですか。なんでみなさんはそんなに楽しそうにしているのですか?」
アンバーは私達が楽しそうにマスクの触り心地を確かめたり、武器の手入れしているのを見て疑問に思ったのでしょう聞いて来ました。
「それは、久しぶりに全力で暴れられそうだからさ、普段は力を加減して生活しなきゃいけないが殴り込みなら気にせずに暴れられるからな。その上相手にあの8本腕の男の様な改造人間を倒せばボーナスが出る。さらに死体を引き渡せば追加でボーナスだ」
ファイターは肩を回しながら楽しげに言った。
「依頼料ついでにボーナスが出るなんてなんで素晴らしい」
「私は改造人間と戦う気はありませんが、能力を好きに使っていい場は滅多にないので、楽しんでいきます。それにあのバイトでの虚無感を全て今回の仕事でぶつけてやりますよ!」
フレイムはまだ死んだ目をしていましたがやる気は充分な様で怪しげな笑いをあげていました。
「私達の様な改造人間は普段全力で能力を使う機会はないので、こういう機会は貴重ですから。それに何より、臨時収入が出るというのが本当に嬉しい。頑張って貧乏生活から脱出してやりますよ」
『やばい。こいつら血に飢えすぎてる』
ほとんど話していなかったバレットがポツリと呟き、心配そうにアンバーを見つめていた
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