第12話 退役軍人は証拠を探しにいく その3
襲撃犯に攻撃を仕掛けるにあたって、私は不安な事がありました。
それは、8本腕の男の能力がわかっていない事でした。
私が受けた改造の様に速く動けるだけでなく、それに耐えれる様な身体に改造された様に副産物の様なものがあるのではないかと考えていました。
しかし、現状ではそれを確かめる手段もないので実際に戦いながら調べるか、相手が能力を使う前に倒す以外の方法はありませんでした。
受付前に集まっていた襲撃犯は8本腕の男を含めて全部で五人でした。
私達は最初の奇襲で私が二人、ファイターが一人を倒す事ができました。
しかし、その時点で相手に私達の存在がバレてしまいました。
襲撃犯からの銃撃でファイターが隠れている場所から動く事ができなくなってしまいました。
やはり、腕6本分の銃撃は強烈で逃げ出そうにも身を出した瞬間、その銃撃を受ける事になってしまうので、抜け出すこともできませんでした。
まだ、救いだったのは8本腕の男が使っている銃弾が、暴徒の鎮圧などに使われるスタン弾だったことです。
この弾はスタンガンと似た様な仕組みで弾が当たった対象に電撃を当てて気絶させるものでした。
しかし、私達のうち特にファイターは通常の弾丸なら多少くらっても大丈夫でしたが、スタン弾は別問題でした。
私達の改造を受けた身体では、衝撃への耐性はありましたが、電撃への耐性はありませんでした。
私はそんなファイターの援護のために残った襲撃犯を倒した後、相手から奪ったナイフを持って8本腕の男に襲いかかりました。
改造された腕ならば、切り落としても問題にならないだろうと考えてのことでした。
私は、8本腕の男の右脇腹の辺りにある腕にナイフで刺しました。
「うお!テメェ。痛えじゃねえか!」
8本腕の男は私が刺したのを見てすぐに、腰に吊るしてあるナイフを取り出して切りつけてきましたが、私は速度を上げて避け、距離を取りました。
ナイフで切りつけて、注意を引こうとしたのですが、3つの銃口がまだファイターの方に向いていました。
また同じことを続けようかと考えていると、8本腕の男は息を止めて、集中しだしました。
すると男の切りつけられた腕に変化が起こり始めました。
だんだんと切られた腕が縮んでいき、完全になくなった後、新しい小さな腕が生え始め、その腕が成長していき切りつけられる前の腕と同じサイズになりました。
まるで映像を早送りで見ているかの様でした。
その光景を驚きながら見ていると、8本腕の男は自慢げに語りだしました。
「これが俺の能力だ。腕を何本でも増やせるし、ダメになっても交換できる。この腕で銃をぶっ放せば、俺は誰にも負けねえ」
「確かにすごい能力ですね。これがあれば女性ならいつでも綺麗な手を保てますから。ファイターはどうです。あの能力にしておけば良かったんじゃないですか?」
「いや。確かに腕はたくさんあれば便利だろうが、そうすると服を選ぶのが面倒そうだ。それに腕が多いと鍛えるのが大変そうだからやめておく。私は鍛えた2本の腕で戦う方が好きだ」
「この腕の良さをわからない奴はとっととくたばっちまいな」
8本腕の男はそういうと銃を構え直しました。
もちろん、新しく生えた腕にも銃を持たせていて、前の腕とは特に変わったところはありませんでした。
こんな軽口を言っていましたが私は内心どうしたものかと悩んでいました。
腕を傷つけても、新しい腕を生やされてしまう。
これでは何本腕を傷つけても意味がないという事になってしまいます。
流石に腕を新しく作るのはエネルギーの面からも無限にできるということはないと思いますが、相手の弾幕を避け続けて、スタン弾を一発もくらわずに相手の腕を切りつけ続ける。
そんなことを続けていては、いつかこちら側に限界が来てしまうということは分かりきっていました。
しかし、現状は警備のスタッフがまだ到着していない状況で、私達は到着までの時間を稼がなければいけませんでした。
私は、何回か切りつけた後、余力のあるうちにファイターと一緒に撤退しようと考え、行動を開始しました。
8本腕の男がこちらに銃口を向けるよりも速く、相手の反対側に回り込んでナイフで切り付ける。
この流れを何回か繰り返しました。
その途中で、外からスピーカー越しの声が響いてきました。
「襲撃犯に次ぐ、こちらは新都中央保管所警備部だ抵抗をやめて大人しく出てきたまえ。従わない場合はこちらは武力を持って君達を制圧する」
その声の後、警備部の隊員たちが受付のドア前に銃を構えて集合し始めました。
「なんだ、もう時間切れか。総員撤収だ。倒れている奴は他の奴が背負っていってやれ。俺は警備部の連中を止める」
「おい。高速移動野郎と怪力女。少しの間だったが楽しかったぜ。次はこんなチンケな弾じゃなくて、本物でやろう」
「私は嫌ですね。腕を切っても死なない様な怪物とやり合うのはごめんです」
「私もやりたくないね。近づいて殴ることのできない相手はごめんだ」
「そんなこと言っても無駄だぜ。あんたらがあの嬢ちゃんと一緒にいるなら、俺たちは絶対にどこかでぶつかるんだからな」
8本腕の男はそう言うと銃を構えて施設の入り口へ走りながらその8本の腕で銃を乱射していきました。
警備部の部隊は突然現れた8本腕の男に驚いている内にほとんどの隊員が撃たれていました。
8本腕の男全ての銃を一度に打つのではなく一部の銃で撃ち、他の腕で銃を撃ち、他の腕はリロードをして、また撃つと言う形で、ずっと撃ち続けるという偉業を成し遂げていました。
警備員が全員倒れたのを確認すると、他の襲撃犯を呼びここまで来るために使ったであろうトラックに乗り込んで行きました。
乗り込んで行った襲撃犯の中には、私達が倒した奴らもいた様で私達に口々に罵っていきました。
「覚えてろよ。次はぶっ殺してやる!」
「次は頭に撃ち込んでやるからな!」
こんな言葉を聞きながらも私達は笑顔で彼らを送り出しました。
正直、8本腕の男を捕まえる事ができずにモヤモヤしていたところに私達に負けて悔しそうにしている連中を見て少しだけ気分がマシになりました。
襲撃犯一味がトラックに乗り込んで退却して、その姿が見えなくなったのを確認した後、ファイターに声をかけました。
「やっと終わりましたね。じゃあアンバーさんたちと合流して帰りましょうか」
「そうだな。もう面倒なのはごめんだ。急いで帰ろう」
そう言って私達はアンバーがいる18号室へ向かおうとしている際、後ろから声をかけられました。
「すみません。警備のものですがここであった事件について、お聞きしたいのですがご協力願います」
警備部の一人に声をかけられました。
彼の目はどう見ても私達のことを怪しい人物だと思っている様な鋭いものでした。
まあ、襲撃犯が乱入して、ボロボロの室内で無傷の二人組を見つけたら、絶対に怪しい奴だと思います。
正直、映像が残っていないので私達が襲撃犯と戦っていたと言う証拠もないですし、襲撃犯は全員逃げたので、物証もありませんでした。
その上、証拠の回収のために非合法な行為をしたこともあります。
私達は思いました。
今日は泊まりになるな。
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