第9話 退役軍人は情報屋に会いに行く

「では、依頼も正式に受領しましたし、これから情報屋の所にいきませんか?私達が普段頼っている情報屋なら何か知っているとこがあるはずです。何もわかっていない状態で捜査を始めるよりは良いはずです」


「情報屋ですか?スピードさんは先程も言っていましたが情報屋の方とはそんなに頼りになる方なのですか?」


「はい。とても頼りになりますよ。私達は調べ物については素人ですから、情報収集のプロである情報屋にはいつもお世話になっています。難しい依頼の時はよく頼らせてもらっています。依頼料は高いですが、その分情報の横流しをすることもありませんし、情報の精度はかなり高いですよ」


 私の発言に他の二人のメンバーも頷いて同意していた。


「ああ。情報の精度はとても高いぜ。でもな……」


「ええ情報はとても正しいんですよ。でも……」


 二人はどこか歯切れが悪そうに答えていた。


「すごい情報屋ということは分かりましたが、なぜ2人はどこか嫌そうにしているんですか?」


「それは行ってみれば分かりますよ。私は情報屋へのお土産を買いに行ってきますので、終わったらいきましょう」


 私は情報屋の好物があるファストフード店に向かうため事務所から出ました。


「あの……すみません。情報屋の方なら何か問題のある方なんてですか?」


 私、アンバーはスピードさんが出ていった後、不安になって二人に質問しました。


「いや……情報屋は悪い奴ではないんだ。本当に問題はないあるとすればあいつが住んでいるところが問題なんだ」


「ええ……情報屋はいくら綺麗好きで清潔にしていると言われてもあの場所に行くのはちょっと」


「その場所は一体どこなんですか?」


「下水道だよ。下水道の一部に自分の住処を作ってそこに住んでいるんだ。近くにホームレスの連中も住んでるから住む所としては問題がないらしい。情報屋は本当に綺麗好きだからそこら辺に汚物が落ちているなんてこともないし、変な匂いもいない」


「では、お二人とも一緒に来てくれませんか?」


「「いや」」


 二人が声を揃えて言いました。


 私は新しく買った服を着て、下水道に行かなくてはいけないのかと思うと憂鬱な気分になりました。


 バレットも横で俯いていました。


 やはり犬のバレットには匂いがキツイ場所に行くのは辛いのでしょう。


 「バレットなんでしたら、私だけでも平気なので、事務所で待っていますか?」


 『何を言うんだアンバー、私は君を守るためなら下水道だって平気だ』


「お待たせしました。手土産も買い終わりましたし、これから情報屋の所へ行きましょう。アンバーさんどうしたのですが何か落ち込んでいるようですが?」


「どこに行くかわかったからだよ」


「ああ。そういうことですか、情報屋の方からこちらに来ることはありませんし、諦めてもらいましょう」


 情報屋の所へ行くのは私とアンバーとバレットの二人と1匹になりました。


 途中でマンホールをどかして下水道に入る際には、アンバーとバレットは嫌そうな顔をしながらもついてきてくれました。


 下水道を歩く最中、アンバーは疑問があるらしく私に質問をしてきました。


「情報屋の方はどうして、下水道なんかに住んでいるのですか?高い情報料を取っているのでしたら、いい所に住むことが出来るのではないですか?」


「あの情報屋は変わり者なんですよ。明るいところはあまり好きではないようでしたし、それに下水道は一年中あったかいので気楽なんだそうです」

 

「それと一件伝え忘れていましたが、これだけは、守って下さい。情報屋の事務所のあたりにはネズミが沢山住んでいるんですが、絶対にネズミを殺さないでください。事故で踏んでしまった様な事情があれば許してもらえるかもしれませんが、そうでなかった場合は私も助けることは出来ません」


『下水道にネズミがいることは普通じゃないのか、殺してはいけないとはどういう事なんだ?』


「情報屋に取ってネズミはとても大事な存在なんです。ここにいるネズミはとても賢いので、1匹殺したらここに住むネズミ全てを敵に回す事になります。私も普通の人間には負けない自信がありますが、全体の数がわからないネズミの大群と戦う気はありません」


「実際に嫌がらせで、ネズミを殺した人もいましたが、それ以来その人は消息不明になってしまいました」


「そろそろ情報屋の事務所が見えてきますよ」


 情報屋の事務所は下水道のひらけた場所にあり、その近くにはテントがいくつか貼られており、まるで小さな集落の様でした。


 私はアンバーさんとバレットを連れて情報屋の事務所の扉をノックしました。


「スピードです。いくつか聞きたいことがあってきました」


 すると扉の中から機械音の返事が聞こえてきました。


『仕事の話だね。中でしよう』


 その返事を聞いて、私はアンバーとバレットと一緒に事務所の中に入りました。


 事務所の中は下水道の中とは思えないもの綺麗な部屋でした。


 事務所の中央にはテーブルがあり、その上にはラジカセが1つだけ置いてありました。


 また、奥には椅子が置いてありその上に顔が見えなくなるほど服を着込んだ人が座っていました。


 私たちが中に入ったのを確認した後、ラジカセから音声が聞こえてきました。


『で、どんな情報が欲しい?』


「今回頼みたいのは、私ではなくこちらの依頼人のアンバーです。それとこちらはいつものバーガーセットです」


『いつもありがとう。それはテーブルに置いてくれ』


 私はそう言われて、テーブルに紙袋を置きました。


 するとどこからかネズミ達が鳴き声を上げながら現れ、今日に紙袋を背に乗っけて去って行きました。


 私は、見慣れた光景でしたが、アンバーとバレットにとっては初めて見る光景なので固まっていました。


「アンバーさんもう話しても大丈夫ですよ」


「はい……。情報屋さんに教えて欲しいことは二つあります」


「一つは、私の両親の事故は本当に不幸な事故だったのか」


「もう一つは、私の両親の会社アトラス工業の社長の座を狙っている人がいるか。またいた場合は、その人の名前を教えて欲しいです」


『わかった。一つずつ答えていくよ』


『まず事故の件についてだが、申し訳ないが私の情報網には、かかっていない情報だからわからない。申し訳ない』


『でもその代わり、アトラス工業の社長の座を狙っている人物についてなら心当たりがある』


「その人の名前は、教えて下さい!」


『君も知っている人さ、アレックス・アンバー。君の父親の弟。まあ、君の叔父にあたる人だね』


「その方のことはお会いしたことはないけど、父から聞いたことはあります。役員の一人にはなっているけど浪費家だと行っていました」


「まさか会社のお金を自分のものにしたいからと言ってこの事故を起こしたということですか?」


『まあ落ち着きなよ。この事故を起こしたのは彼だと決まったわけじゃない。確かに彼が現状で、最も得をする人物ではあるけれど、証拠があるわけでわないからね』


『これは、情報ではなくアドバイスなんだが、一度自分のご両親に会ってみるのはどうだい。君の視覚なら何か重要な物も見つかるかもしれないよ』


「それはどういう意味なのですか?」


「アンバーさん、情報屋は両親の遺体に何か重要な物があるのでは、と言っているのです」


「アンバーさんはお父さんが誰かに狙われていてそれを警戒していたと言っていましたよね。もしかしたらお父さんは何か犯人に繋がる情報を手に入れたから殺されてしまったのではないでしょうか?」


「それなら、お父さんが何かデータを持っている可能性もあります。一度ご両親の元に行ってみるのもいいかもしれません」


『富裕層の人間の遺体は新都中央保管所に終われているはずだよ。富裕層用の施設なら遺体から物を盗む様な馬鹿はいないから持ち物は無くなった当時と同じはずだよ』


『知りたいことはもうないかい?』


「ええありがとうございました。次は新都中央保管所に行ってみます」


『私も君が知りたいことを知れることを願っているよ。それと知りすぎて命を取られるなんていうことがないことをね』


『お嬢さんのおかげで久しぶりに息子とも会うことができてよかったよ。』


 アンバーとバレットが驚きながら私の方を見てきました。


「私も久しぶりに会うことができて嬉しいですよ。また機会があれば会いに行きます」


 情報屋の事務所からの帰り道、アンバーが質問をしてきました。


「あの、情報屋さんの事務所で思ったのですがあの部屋には人がいなかったのですが誰が話していたのですか。あの部屋にはネズミ以外生き物がいなかったのですが?」


 私はアンバーが一回会っただけで、情報屋の正体を見抜きかけていたのが面白くて、答えを教える事にしました。


「情報屋は部屋の奥にいた人ではありません。あれはダミーであそこにいたネズミ達が本当の情報屋です。あのネズミ達は超能力が使えるネズミだそうです。」


「超能力が使えるネズミ同士で能力を合わせて使うことで高度な知性を獲得したそうです。彼らは新都全体に根を張っているので情報を得ることができ、それを使って商売をしているそうです」


「あと、スピードさんのことを息子と言っていましたがあれはどういうことなんですか?」


「それは、彼等に拾われたからですよ。彼等のおかげ普通の孤児よりもいい暮らしはできましたし、教育も彼等のお陰で受けることができたので本当に感謝していますよ」


 私は彼等との生活を懐かしみながら、アンバーとバレットと一緒に事務所への帰り道を歩いて行きました。

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