第8話 悪人達は依頼人に会いに行く

 俺は依頼人に依頼の報告をする為に相棒と一緒に集合場所に向かいながら考えていた。


 こんな依頼を受けるべきではなかった。


 最初依頼を聞いた時はスラム地区にやってきた犬を連れた金持ちのガキを誘拐するだけで大金がもらえる楽な仕事だと思っていた。


 だが実際は違った。


 ガキ自体は普通の何処にでもいるようなガキだったが、一緒にいた犬は違った。


 相棒がガキを捕まえようとした時、犬が相棒の手を食いちぎりやがった。


 普通の犬は簡単に人の手を食いちぎるような頑丈な顎を持っているなんてことはない。


 それにあの犬は、銃で撃ち殺したはずだったが、俺と相棒が変な野郎に気絶させられて、目覚めたら消えてやがった。


 血の跡と肉片が落ちていたから、二人して幻覚を見ていたってわけじゃねえ。


 おそらく、何処かの実験動物が金持ちの親がボディーガード代わりに改造した犬なんだと思う。


 そいつのせいで、俺の相棒は闇医者のところで治療を受けなきゃいけなくなっちまった。


 義手は良いものを着けるのに金がかかる上に今後のメンテナンス費用の問題もあってつけることができなかった。


 相棒も流石に1番安いUFOキャッチャーの親戚のような義手をつける気はなかったようで、そのままにしている。


 それにあの時、通りすがりのライダースーツを着た男邪魔されたのも不味かった。


 あんな動きができるのはまともな人間じゃねえから改造を受けた人間だと思う。


 もし、奴が来なければガキを連れ去ることができたかもしれない。


 そうすれば相棒も性能のいい腕を手に入れるだけでなく、俺と相棒のお互いの夢である改造手術を受けることが出来たかもしれない。


 ガキの頃、見た改造技術の凄さをアピールする番組で筋骨隆々の男が持ち上げることが出来ないバーベルをモデル体型の女が軽々と持ち上げるシーンや改造した腕を伸ばして遠くのものを掴むシーンなど普通の人間には出来ない行動をしていた。


「おい相棒、今の番組見たか?」


「ああ見たぜ。あれはすげえ。あんなことが出来るようになれば、俺達は無敵になれるぜ」


 それから、俺達は改造手術を受ける為に色々と調べてみた。


 わかったことは、普通に改造を受ける場合は大金がかかるということだった。


 軍隊に入れば、負傷をした際に改造手術を受けられるという噂もあったが、流石に死ぬかもしれない場所で改造手術を受ける為だけに怪我をしに行こうと考えるほど、俺達はイカれてはいなかった。


 それからは、大金を集める為に薬の運び屋や窃盗、人攫いなど合法、非合法関係なく仕事をした。


 この人攫いの仕事さえ成功すれば、改造手術を受けれるってところまで来ていたってのに、相棒の負傷で目標が遠のいちまった。


 「とりあえず、依頼人の野郎には文句を言ってやろう。なにが簡単な仕事だとあんな化け物みたいな犬がいるならこんな仕事なんか引き受けることはなかった」


「それに相棒の手の落とし前をつけさせてやろうぜ!」


「ああ、あの依頼人はあんな高額の報酬を出そうと言っていたんだ。きっと金はたくさん持ってやがる。だから手の治療費をふんだくってやろう。それに追加して迷惑料も貰っていこうぜ。その金と今までの稼ぎを合わせりゃ俺達も夢の改造人間だ!」


「そいつはいいな」


 俺達はそんな今の不安を忘れる為にわざと明るい話をしながら、集合場所へ向かっていった。


 集合場所に着いた時、集合時間より少し早かったが、相手はすでに待っていた。


「来ましたか。おや私が頼んだ子供は一緒ではないようですが依頼の内容を忘れているのですか?」


「何が忘れているのですかだ!お前の方が伝え忘れていることがあるだろうが!なんだあの犬は銃で打たれて平気な犬の話なんて聞いたことがねえぞ!」


「そうだ!あの犬は化け物だ!一噛みで手を食いちぎるなんてどんな化け物だ!せめて事前に知っていれば、やりようはあったてのによう!」


「そのせいで俺は手を食いちぎられちまったんだぞ!どうしてくれる。」


 俺と相棒は依頼人の男と話しながら観察していた。


 交渉が決裂した際にあいつを捕まえて、それをネタに金を得るためだ。


 あのガキの時のような失敗をしない為にも依頼人を注意深く観察していた。


 見たところ、普通のスーツをきたガタイの良い男ということしか分からなかったが、それくらいなら、こっちは二人で銃を持ってる。


 二人がかかりでいけば何とかなると考えて相棒に合図をしたら、二人で銃を撃とうという意味のサインを送った。


 このサインは俺と相棒がガキの頃から使ってきたサインで、このサインのおかげで死なずに済んだことが何度もあった。


 依頼者の男は自分のスーツとシャツのボタンを外しながら、話し始めた。


「犬と一緒に逃げたとは聞いていましたが、あの犬特別製だったんですね」


「おいお前、何してるんだ!動くんじゃねえ変な真似すると撃ち殺すぞ!こっちは金さえもらえれば良いんだ」


 相棒も俺が銃を向けたのを見て慌てて銃を依頼人に向けた。


 向けられた銃を見て依頼人はのんびりと手を挙げた。


 これからどうするかを話す為に相棒の方を見た時突然、銃声が響いて、相棒が倒れた。


「おいどうした!撃たれたのか?しっかりしろ!」


 相棒に駆け寄ろうとした時、誰かに銃を持っている方の腕を掴まれた。


「安心しろよ。あいつは死んでねえよ。あんなんでも使い道はあるんだ。」


 掴んだ相手を見た時、俺は固まってしまった。


 俺の腕を掴んでいる相手は依頼人の男だったがその腕が異常だった。


 依頼人はまだ両手を上げたままで、開いたシャツの中からもう一本の腕が伸びていた。


 依頼人はとても楽しそうにお気に入りの玩具を見せびらかすように自慢げに話し出した。


「すごいだろう。俺は何本でも腕を生やすことが出来るんだ。これで銃を持ってぶっ放せば俺は最強だぜ!」


「スラムの子悪党の分際で俺を襲おうなんて考えるんじゃないぜ!」


「それに俺の依頼人が自分の指示を聞く私兵が欲しいみたいでよ。お前達のようないなくなっても問題のないような奴を探していたんだよ」


「なんでも、そいつらを捕まえて改造手術を受けさせて強力な私兵として生まれ変わらせるらしい。良かったな。お前らみたいな奴には絶対受けられない手術を受けさせてもらえるぜ」


「まあ、薬を使って洗脳をして指示を聞くようにするらしいから、元の人格が残っているかは分からないけどな」


 そこまで話した後、腹から出たもう一本の腕で、俺に狙いをつけた後。


 奴は言った。


「じゃあ。そういうことで目が覚めたら新しい自分になっているが頑張ってくれ」


「ま待っ!」


 俺は命乞いをする間もなく、銃で撃たれて意識を失った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る