第7話 少女は依頼について話し合う
スピードさんの発言を聞いて私は、ここに来た目的と私がしたいことについて考えました。
目的は勿論、私の殺されてしまった両親の仇討ちです。
両親は車のブレーキの操作ミスによって起きた事故で亡くなったという話ですが、私はその事故は人の手によって人為的に起こされた事故だと確信していました。
なぜなら、私の父は車のメンテナンス専門の使用人を雇うほど車を使った暗殺には警戒をしていました。
また、両親は最近、人の視線を感じる時があることや近くで事故が起こることが多いことについて気にして、警備の人数を増やすほどでした。
それでも、事故が起きて両親は亡くなってしまいました。
私はこの事故を両親の持つ莫大な資産を狙っている親戚の犯行ではないかと疑っていました。
毎日メンテナンスされている車にそんな問題が起こるはずはないからです。
もし、起こるとすれば、整備でわざと見逃されたのか、それともメンテナンスが終わった後に細工をしたのではないかと考えています。
その原因を調べる為にも私は、富裕層と市民層地区の調査会社にあたってみましたが、どこも引き受けてくれるところはありませんでした。
おそらく、両親を殺した人が先回りをしていたのだと思います。
その為、私は一か八かでスラム地区の会社をあたることにしました。
両親からもスラム地区は危険で法が通用しない場所もあるので、近づいてはいけないとも言われていましたが、背を腹にかえることはできません。
そこまで追い詰められていた理由は両親の仕事をサポートしていた執事のバトラーも最近は姿を見せなくなってしまった為です。
他の使用人に聞いてみても休暇をとったということしか聞いていないそうで、普段何も言わずにいなくなることがなかったので、何かあったのではないかと疑っています。
彼は長年両親に仕えていた方で両親を裏切って犯人側につくということはないと思います。
それに彼は、仕事の面においても両親の近くで働いており、会社の運営に関わる情報について知れる位置にいたので、捕まってもすぐに殺されてしまうということは考えにくいのでした。
バトラーがいれば私のこの危険な考えを宥めた後、共に対応を考えてくれたかもしれませんが、今はいません。
そして、そのままこのスラム地区で会社を探している時に二人組に拐われそうになってしまいました。
そこをテスラ探偵事務所のスピードさんに助けられて、今に至ります。
その時の経験からわかったことは、私にはないものが多すぎるということでした。
何かあった時に相談できるような相手や助けてくれる会社などもなかったこと。
理不尽に対抗することができるだけの力も持っていませんでした。
力という意味では、スピードさん達の能力を考えれば普通のボディーガードを雇うよりも何倍も安全ですし、土地勘のない身で他に信用出来そうな場所もないので、私はこの事務所に依頼をしようと考えていました。
そこで私は意を決して発言しました。
「まず、私の名前はアンバー・アトラスと言います。アトラス重工の社長の一人娘です」
「依頼したいことは、私の両親が亡くなった車のブレーキ事故、その原因究明とその事故が人の悪意によって起こされていた場合はその復讐です」
「報酬については、前払いで100万、依頼の間最後に900万でどうでしょうか、前払いの金額に関しては、私が動かせる限界なのでこれ以上支払いことはできません」
「すみませんアンバーさん。金額の単位は新都円でいいのでしょうか?それと復讐についてですが、それは痛めつけるという意味ではなく、殺してしまうという意味でいいのでしょうか?」
「はいスピードさん。金額の単位は新都円で大丈夫です。もし本当に持っているのか不安だというのなら私のクレジットデータもお見せするので確認してください」
「復讐については、私は殺人の方で考えています。もし皆さんが殺すのは嫌だというのなら場所さえ用意していただけたら、そこで私が仇を討ちます」
「私は、自分の両親を殺されても相手を許してあげるほど優しくはありません。両親を殺した相手にはそれ相応か以上の報復をしてやりたいと思っています。それに二度とこのようなことが起こらないように他の人たちに私や私の大事なものに二度と手を出そうなどという考えが出てこないようにしてやりたい」
「アンバーさん。犯人の殺害については、私達は別に問題はありません。人を殺せないような人はスラム地区には誰もいませんでしたから、それに私達は全員元兵士です」
「今更人に対して、殺人はいけないなどと言っても命を奪ってきたものとして説得力がかけらもありませんから。例外としては所長ぐらいですね。あの人は軍に所属していませんでしたし」
「それに気になっていたのですが、何故アンバーさんは、事故ではなく、他殺であることを確信しているんですか?正直車の運転でブレーキが効かなくて事故が起こるというのはありえないような事故ではないですよ」
スピードさんの発言を聞いて私は、父が最近警戒をして警備を増やしていたこと、両親が亡くなった後、両親に信頼されていた執事のバトラーも行方がわからなくなっていることを話しました。
私の話を聞いた後、スピードさんは少し考えたあと言いました。
「確かにアンバーさんの話を聞く限り、そこまで行くともう犯人がいない方が不自然な話ですね。もしかしたらアンバーさんを消すことで会社を乗っ取ろうと考えている人がいるのかもしれません」
「それでしたら一度、私達が頼りにしている情報屋に会いに行きませんか?あの人ならどの地区の情報も持っていますし、もしかしたらご両親の会社を乗っ取ろうとしている人についてもわかるかもしれませんよ」
話をしながらスピードさんは端末を操作して書類を作っているようだった。
私が見ていることに気づいてスピードさんはその端末を私に見せながら話した。
「これは今回の依頼についての契約書です。アンバーさんが私達に依頼をしてもいいということでしたらこちらにサインをしていただきます。ですがすみません、話しながら書類を作るのはどうも苦手でしてもう少々お待ちいただけないでしょうか?」
私は言われた通りに待っていることにしました。
事務所のメンバーのファイターさんとフレイムさんはどこかそわそわした様子で私とスピードさんを見ていました。
「これでしばらくは貧乏生活じゃなくなるな。」
「そうですね。これで安心です。」
私は聞こえていないフリをしました。
「できました。アンバーさんこちらにサインをお願いします」
私はスピードさんから端末を受け取り、内容を見て、何処にも問題がないことを確認して、自分の端末にもデータをコピーした後サインをしました。
「では、これよりアンバーさんを正式な依頼人として依頼を進めさせていただきます。これからよろしくお願いします」
スピードさんはそう言いながらこちらに手を伸ばしてきました。
「こちらこそ、両親の敵討ちをよろしくお願いします」
私はその手を取って強く握り返しました。
この光景を見ながらファイターさんとフレイムさんは抱き合いながら喜んでしました。
「やったな、これで本当に貧乏生活とはおさらばだ!」
「そうですね、私も溶接機の真似事をしないですみます!」
「二人とも依頼人の前ですよ」
スピードさんは二人を諌めているようでしたが、私の強化された視覚は依頼が正式に決まった瞬間、小さくガッツポーズをしているのを見逃していませんでした。
『この事務所は本当に大丈夫なのだろうか?』
バレットの呟きは事務所内の賑やかさに消えていきました。
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