十一話目

 喜多さんと共に階段を降り一階を覗いてみると、一階には埃の粉雪が舞っていた。


「ほんとうに、ここが骨董屋の階なんですか?掃除されていない蔵の中くらい埃舞ってますけど」


 この埃が自分の中に入ってくるのがなんとなく嫌で、バレないようにこっそり息を止める。


「あははは、ほんま恥ずかしいわ~。あんまり活気のある店って訳じゃないけど、まあこれでもいろいろやってて、結構儲かってはいるんやで」


 ガタガタ、ガタガタ...................。


「これって本当にその店長さんの発してる音ですか?なんか熊が民家を襲ってるってわけじゃないですよね?」


「う~ん。ど~やろな~、熊かもしれん?」


「え?」


「ん?」


 また喜多さんは、自分は関係ないとでもいうようにヘラヘラと笑う。


「なんで自分の店に熊がいるかもしれないのにそんな平気でいられるんですか?」


「別に俺の店ちゃうしな」


「なんて薄情な..................」


「なら柳瀬も早く離れた方がええんちゃう?ほんとに熊がおるかもしれないし」


「でも確かめないことには分からないですし」


 恐る恐る埃の中を進んでいくと、一番奥の棚に何かを貪るようにモゾモゾ動いている小さい物陰がチラッと見えた。


(!!!!!??)


 見られないようバッと瞬時に身を引く。


「喜多さん(!)なんかいますよ(!)ほら(!)あそこ(!)」


 できるだけバレないように声を抑える。喜多さんも僕の肩を支えにして。ムクっと背伸びし奥に目を向ける。


「あら、ほんまや。なんかおるね、あそこ」


「いや、だから(!)なんでそんな冷静なんですか(?!)」


「いやだってこんなこと、今に始まったことじゃないし..................」


「なら喜多さんなんとかしてくださいよ~」


「いやや、だって俺ああゆうのニガテやし」


 喜多さんはそう言って困ったと言いたげに、わざとらしく眉間にしわを寄せる。


「じゃあちょっと悪いけど。店長一階のどこかにはいるはずやからさ、後は頼むわ。俺は二階で寝とくから、じゃあよろしくやっといて~~」


「いやちょっと待............え?」


 振り返ると、そこに喜多さんの姿はなかった。


「え?.........あ..................あれ?いくらなんでも冗談きついです..................」


 弱弱しい僕の声が、沈黙を破りもせずに消えていく。


「マジですか..................」


 というか、さっきからどういうトリックなのだろう。初めて会った時も、喜多さんは急に現れた............。こんなの普通の人ができるものじゃ絶対ない。


「でも行くしかないのか..................」


 近くの棚に無造作に置いてあったはたきを手に取り、ゆっくり震える足を擦りながら歩き出した。


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