八話目

「えっとすみません、僕もよく分かってなくて。あなたがこの『家』?の方ですか?」


「まあそんな感じかな。で、君はなんでここに?」


「えっと、自分でも分からないです。気がついたらここにいて。逆にここってどこですか?」


「んーとね〜。なんて説明したら良いのかな?」


そう言い腕を組んで考えてる素振りを見せるこの人は、今時のおしゃれなパーマのかかった髪形に羽織を着たヘンテコな格好をしていた。


「まあ骨董屋みたいな感じかな?普通の店とは違うし、それだけではないんだけど...................」


 モヤモヤした言い方が、なんだか気になってしまう。


「普通の店とはって、つまりどういうことですか?」


「まあ知る人ぞ知るって感じだね」


 へぇ~、僕はそう謎に感心した。骨董屋か~骨董屋...............はっと急に冷静になる。


「別にそういうのが知りたいんじゃなくて、あなたは誰ですか?」


 僕がそう言うと、その人はにやぁと口角を上げる。太陽が雲で隠れたのか、陽の光が無くなり突然あたりが暗くなる。


「僕の名前は■■■■■■■」


「ん?」


「だから■■■■■■■」


 全く言っている言葉が分からない。というか、そもそも言っていないんじゃないか?少なくとも日本語に置き換えることができない。声は変わっていないのに、なんで?


「全く分からないです。なにか紙とかないですか?書いてもらわないと...............すみません」


 その人はにやにやしながら、僕を馬鹿にするかのように見てくる。眼の瞳孔がどんどん大きくなってそれどころか形まで変わり、まるで猫の目のように縦長になった。

その目を見ていると、なんだか立ち眩みがして思わず目を逸らす。

 すごく気まずい。何か言わないと...............。少し階段のしみを少しチラ見して、なにを言うか考える。


「なんかそれって...................面白いジョークですね............」


「ふふ、ふははははは!!ごめんごめん、ちょっとからかいすぎたわ!」


 そういって笑う瞳が人間のものに戻っていた。


「ごめんな。ちょっとむずかしい名前やねん!まあ俺のことはキタって呼んでくれ!!」


「北ですか............東西南北の?」


「いやちゃうな。喜びが多いの喜多や!!ええ名前やろ?」


 名前を言った途端にすごく上機嫌になるなこの人。しかも関西弁だ............。


「関西の人なんですか?喜多さんは」


 僕がそう言うと、喜多さんはなんだか弱点を突かれたようにウっとした顔をする。


「まっまあ......、大阪が俺を生まれ変わらせたみたいなもんやからな!第二の故郷みたいなもんや!!」


「はっはぁ............」


 喜多さんのその明るい性格に、少し緊張がゆるむ。


「ところでまだお前さんの名前を聞いてなかったな!何て名前なん?」


「えっと、柳瀬って言います」


 やっぱり、僕の名前を聞いて喜多さんがした表情はそんな感じだった。


「あっそうなんや。柳瀬、これからよろしくな?」


「そうですね。よろしくお願いします。なんか変な出会いですが............」


 (ん?なにか忘れているような............)


「あっそうだ!!僕をここへ連れてきたのは喜多さんなんですか?それとここってどこですか?駅の近くですか?そもそもここって何県何市ですか?!!」


 僕がそうまくし立てるように言うと、喜多さんは両手を僕との間に挟み、落ち着くように諭す。


「まあまあ落ち着けや、な?お腹のむし、鳴っとんで」


 また喜多さんはにやにやして僕を小馬鹿にしてくる。そんなはずはと思い下を見ると


「ぐぉぉぉぉぅぉぉお」


「な?鳴っとるやろ?」


 クスクス、喜多さんは僕の真っ赤な顔を覗いて意地悪にまた笑った。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る