七話目

「ん?...............なんだ?」


 朝日が窓から漏れ出してきて、少し眩しい。触るとなめらかで、普段使っているのとは違うシーツ。毛布は使い古しているのか少し毛羽だっていて、鼻を近づけると柔軟剤のいい匂いがした。


「ベットの中?」


 むくっと起き上がってあたりを見回す。ワンルームなのかベッドもダイニングテーブルもソファーもあるこの部屋は、間接光でほんのり温かみを帯びていた。

 毛布をどかそうと手を伸ばし掴もうとすると。


「痛っ!!」


 突然手に灼熱感が走って、思わず手を引っ込めた。


「え?なにこれ?.........。やけど?」


 それは手のひらに模様のような柘榴色のやけど跡だった。なぞってみると何か軟膏が塗ってあるのか、少し滑べる。


(とりあえずなにから始めたらいいんだ?まずはスマホ......................................。

  河西さんに取られた!!!ていうか樋口は?!バイトは?!)


 急に色んなことを思い出して、なにから考えればいいのか、何からするべきなのかどんどん分からなくなって、思考が停止する。


「とりあえず、一回ここがどこなのか確認しないと............」


 痛みを我慢して毛布をどかし、倦怠感がまとわりつく身体を動かし、足を床につける。スリッパも何もないので裸足で歩くしかない。春先の朝はまだ寒く、床がひんやりしてどんどん足のぬくもりをさらってしまう。


「結構伽藍とした部屋だけど、生活感が無いわけじゃない。誰かが住んでいるはずなんだけど.........。ここの家主は何処にいるんだ?」


 別に自分の意志でこの家に侵入したわけではなにが、何故かここにいることが悪い気がして、自分の存在をできるだけ消そうと忍び足になってしまう。部屋の窓から外を見ると、そこから見えるのは木々ばかり。ここはどうやら二階のようだった。


「二階ってことは階段があるはずなんだけど......」


 ダイニングテーブルやソファーが置いてある方に歩くと、ブラックコーヒーを先ほどまで飲んでいたかのような残り香が辺りに漂っている。


(やっぱりさっきまでここに誰かいたんだ)


 さらに進んでソファーの方まで行くと、ソファーを背にして一回に続く階段があった。


「すみませーん...................誰かいますかぁ~............」


 情けない中途半端な声が、一階に弱弱しく響いていく。朝日が差し込み明るい二階とは違い、一階と一階へ続く階段は日が差し込まないのか薄暗かった。


「こんな暗いのに人がいるかな?」


 自分でもそう思いながらも、家主を探すには、というか外へ出るためには、一旦一階を確認しておく必要がある。ここは腹をくくって行くしかない!


 そういって一歩、また一歩と階段にゆっくり足をかけて降りる。ミシッ、ギシッと階段を踏むごとに床がきしんで、静かなこの部屋の中ではかなりうるさい。まるで僕と居場所を晒そうとしているみたいで、僕の臆病さを煽ってきた。


ギシッ、ギシッ、自分の足音だけが沈黙を消している。はずだったのに。


「そんなところで何をやっているんだい?」


 思わずビクッと振り返ると、逆光を背にした誰かが立っていた。








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