六話目

 ゴツ、ゴツ、靴の底と床がぶつかる音だけが、あたりに響く。樋口はビデオカメラを構えながら、その箱の周りをゆっくりと回り始めた。僕は息を殺して、カメラからはみ出ないようにしっかりと収める。


『カタカタカタカタ..................ゴトン!!』


 その時後ろから突然物音が聞こえ、ビクッと肩が跳ねる。思わず振り向くとそこには土偶のような木の人形があった。


「なんでこんなところにこんなものが?」


思わずそれを拾い上げると背中に付箋のような紙がくっついていた。


《樋口くんへ。これが今回の商品です。またしっかりお願いしますね!》


(え...................?なんだこれ?)


「なあ樋口!!撮影中なんだけどさあ!?」


 嫌な予感がして声が震える。樋口は僕の声が届かないのか、こっちを振り向かず撮影を続けていた。


「なあ?!樋口?!こっちにもなんかあって、付箋みたいなものも貼ってある。ねえ樋口?!」


 僕の声にやっと気が付いたのか、樋口はこっちをばっと振り向いた。僕が手に持っているものを見て、樋口の表情が一気に曇る。


「柳瀬!それを持って早く本殿を出るんだ!!早く!!!」


 樋口の鬼気迫るような声に、思わずビクッと肩が震える。


(突然なにを言ってるんだ?)


 樋口は僕にそんなことを言っておきながら、その場に留まって、その箱から目を逸らさず撮影を続けている。


「なあ、樋口は?!樋口も早く!!なんでまだ撮影してるの?」


「いいから早く!!これが終わったら俺も行くから。だから先に行け」


 もうなにがなんだか僕には分からなかった。もうどうするのがいいかなんて僕には判断付かない。


「早く...................樋口も来てね」


 僕はそのまま本殿を抜けて境内に出た。はっ、はっ、たいして走ってもいないくせに息が荒くなる。外は文字通り真っ暗で、本殿の入り口から少し漏れ出る灯り以外何も見えない。


 本殿をただただ見ていると、本殿の中からビデオカメラの録音終了の音が鳴り、本殿の中にあった提灯が動いた。


 樋口が本殿の扉の所まで戻ってきてることが分かって


「樋口!!」


 思わずそう叫んだ。


 僕を探しているのか扉の奥で周囲を見回していた樋口と目が合う。


(良かった。樋口が無事で。早く帰ろう)


 樋口がこちらに向かって走り出した時。


『ガラララララララララララ!!!!!!!!!!!!』


(??!!)


 自分の見える景色が変わらないのに、自分の体が落ちる感覚が僕にこびりついてくる。そしたら急に視界が暗くなって、自分の意識と身体が切り離された。














 暗闇の中、木が引き裂けるように割れる音だけが、あたりに鳴った。





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