第78話 ランダムダンジョン

 ランク上げの為の依頼をこなしながら一月ほど待ち、遂に俺たちにランダムダンジョンの攻略権利が回って来た。

 

 場所はアルメリアの街から西に十日ほど行った僻地。

 そんな場所でも報酬が上手いのでランダムダンジョンは人気だが、深層の情報を冒険者ギルドに共有するのを条件に石紅が掻っ攫って来たのだ。


「ちょっと遠いけどBランクのダンジョンだから文句はないでしょ。やー、権利取るの結構大変だったよ。感謝してよね、特に葛西」


 冒険者やギルド同様ダンジョンにもランクがあり、高い程に報酬も期待できる。

 Bランクのダンジョンであれば、運が良ければ金貨500枚以上の超高額マジックアイテムがドロップしてもおかしくないんだとか。


 そんなこんなで馬車に揺られて10日間。

 俺たちは荒野の真ん中にポツンと生まれた禍々しい洞窟の前にやって来た。


「……なんかようやくって感じだな」


 思えば勇者の本に言われてからダンジョン攻略の為にかなり苦労してきた。

 それにようやく一区切りつくのだ。


「ま、最初から表に出る覚悟を決めてればここまで時間かかってないけどね」


 皮肉を言う石紅。

 ギルド名の一件からやや俺への当たりが強い。


「仕方ないだろ、バレないに越したことはなかったんだから。……それに、短期決戦に挑めるだけの覚悟が俺になかったからな」


 4人でBランクダンジョンを攻略するというのは相当なことだ。

 恐らくこのダンジョン攻略を皮切りに、俺たちは大々的に注目されるようになるだろう。

 そうなれば、後はいたちごっこ。

 ラスダン攻略の準備を整えて殴り込むのが先か、追手に追いつかれるのが先か。

 

 今までの俺はどこか逃げる気持ちがあった。

 出来るだけ時間を稼いで着実に準備を整えればいいと思っていた。

 ——国を心配するメアの気持ちから、目を逸らして。


 だが、深層から帰還して俺の心は決まった。

 メアとの夜が、浅海の言葉が、俺を一歩前に進ませたのだ。


「っしゃ! さくっと攻略して大儲けするぞ!」


 念願を叶えた俺たちのやる気は十分。

 気持ちを一つにダンジョンへと入っていく。


 Bランクダンジョンは大ダンジョンの下層くらいの難易度だった。

 罠もかなりあるので慎重さが求められるが、深層程の緊張感はない。


 俺たちは順調に攻略を進め、半日で20階層を突破。

 中ボスの気持ち悪い顔のケンタウロスを倒して休息を取る。


「……しかしあれだな。ランダムダンジョンってのは随分と深いな」

「一つ一つのフロアは大ダンジョン程広くないですけどね。中ボスは結構強かったですけど」


 疲れを見せる俺に、メアが微笑みかける。


「どうする? 今日はここまでにしておくか?」

「どうせならボスの前までは行っておかない? そしたら明日はボス倒した後移動に一日使えてお得だし」


 効率重視の石紅らしい提案だ。


「でも、ボスってかなり強いんだろ? それだと明日に疲れを残すことにならないか?」


 ランダムダンジョンはダンジョンそのものの難易度は上級者なら普通にクリアできるレベルだが、その分ボスが強いらしい。

 大手のギルドでも最低3パーティでレイドを組んで挑むほどで、それだけ安全に気を付けていても定期的に死者が出るんだとか。


「冷静になるとそんなの相手に俺たちだけで挑んで良いってよく許可下りたな……」

「ま、そこは私の交渉のおかげ……と言いたいところだけど、深層の中ボス踏破の実績が無かったら無理だったよ」

「あー、あいつも意味わからん難易度だったもんな……」

「流石にあんなギミックはないと思うけど。どっちかというとランダムダンジョンのボスはひたすらHPが多いレイドボスって感じみたいだから」

「なあ、それってつまり」

「うん。戦闘はほぼ葛西に丸投げするつもり」

「まじか……」


 ギルドの命運は俺の覚醒技が通用するかどうかに託された。

 ま、今更責任から逃げる気はない。

 這ってでも大ダメージをぶち込んでやろう。


 そんな風に先の話をする俺と石紅。

 ふと顔を上げると、少し離れたところでメアと浅海が何やら話し込んでいるのが見えた。

 二人は何やら小声で話してくすくすと笑い合っている。

 その様子に俺がほっと胸を撫でおろしていると、


「よかったね葛西、奏ちゃん出て行かなくて」

 

 からかい調子の石紅が声を掛けてくる。


「……そう、だな」


 俺はそれに反発するでもなく、しみじみと頷く。


 気まずくなるのではと心配したが、浅海はみんなと普通に話をしていた。

 尤も未だ俺とだけは事務的な会話ばかりなので実際どうなのかは分からないが。


 それでも俺は彼女が笑えていることにただただ安心した。


「いやぁ、昔から素質はあると思ってたけど流石だね。よっ、ハーレム系主人公!」

「いやハーレム作る気はないけど……って、昔から素質あったってなんだよ」


 思わぬ言葉に問い返すも、返事はなく。

 

 俺たちはその後石紅の提案通りボス部屋の前まで進んでから就寝。

 翌朝ゆっくり時間をかけて身支度をして、ボス部屋の扉を開く。


「……冗談だろ?」


 が、中にいた存在を見て俺は愕然とした。

 いや正しくは存在にというか、その大きさにだ。


 ボス部屋の中にいたのは、体調二十メートル近い超巨大な亀だった。

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