第77話 ギルド登録
このダンジョン都市アルメリアのあるギルムッド大陸には、《ギルド》というノルミナの街があったミッドストック大陸とは異なる独自のシステムがある。
といってもゲームとかでよくあるものとシステム的には殆ど同じなので、日本人にとってはむしろ馴染み深いといえる。
一番の目玉は前述した通り、ランダムダンジョンの攻略依頼が振り分けられること。
これは冒険者ギルドによって公平に分配されるが、ギルドランクに応じて高いランクのダンジョンを割り当てられるので強いギルドが得をする仕組みになっている。
後は冒険者ギルドを介さずに依頼を受けたり、個人とは異なるギルドとしてのランクがあったり、ランクが上がると特権で商売をする権利が認められたり冒険者ギルドの運営に携わったりと、まあそんな感じだ。
前の大陸にギルドシステムがなかったのは各国の運営方針の問題だ。
ミッドストック大陸はエルフの国然り、魔族の国然り、王政によって統治されている国が圧倒的に多い。従って実入りの大きいランダムダンジョンは基本的に国家お抱えの騎士団なりによって攻略されてしまい、冒険者のところに依頼は来ない。
対するギルムッド大陸は民主制や共和制の国が多い。加えて大ダンジョンのような恒久的に利益を上げられるダンジョンの存在により冒険者のダンジョン攻略の腕が良く、どこに発生するか分からないランダムダンジョンの為に騎士団を抱えるより、専門家である冒険者に任せた方が効率がいい、という状況となっている。
その為冒険者として稼ぐにはギルムッド大陸の方が効率が良く、全体の質も高いのだ。
そんなギルムッド大陸の冒険者の中心。
ダンジョン都市アルメリアに存在するAランクギルドは現在三つ。
《星龍の軌跡》《黒の終焉》そして、《蒼の剣狼》。
Aランクギルドは現在この大陸に五つあるので、半分以上がアルメリアの街に集まっていることになる。
因みにSランクギルドは今現在この大陸に存在しない。
昔はあったらしいが、解散したんだとか。
「これでギルド申請は完了。もう後には引けなくなったね」
石紅と一緒にギルドを作る届け出に来た俺は、その待ち時間にこの街の、そして大陸のギルドのシステムについて駆け足で叩き込まれていた。
石紅の説明は分かりやすいのだが、膨大な量を一気に詰め込まれて少々めまいがする。
「ぼーっとしてるけど、葛西が勝負に出るって言い出したんだからね。私の説明ちゃんと覚えてる?」
「あー、まあ要は三つのAランクギルドをぶっ倒せば俺たちが頂点ってことだろ?」
「違わないけど……喧嘩じゃないんだから倒す必要はないからね」
俺の適当な返しに石紅が呆れ顔を向ける。
「あ、でも《蒼の剣狼》だけはぶっ倒したいかな。……なんか思い出したらイライラしてきた」
俺たちが先に情報を掴んだランダムダンジョンを搔っ攫い、中ボスを独占し俺たちの行く手を阻んだ《蒼の剣狼》。
彼らへの恨みは未だ健在らしい。
石紅さん結構根に持つタイプだからなぁ……俺も未だに過去を掘り返されてはチクチク突かれている。
メアへの暴露という最強のカードを持たれている為、最近はなにを言われても平謝りだが。
「もう申請しちゃったけど、ギルドマスターほんとに私でよかったの? 大抵は一番強い人がやるものらしいけど」
「焼け石に水かもしれんが、時間稼ぎは多い方がいいからな。ダメそうなら後から変えればいいだろ」
一応、情報が出回るのを防ぐためにメアと俺はなるべく表に立たないようにしている。
もっとも目標を達成するくらい活躍すれば新聞なりなんなりにすっぱ抜かれ大陸中に広まるのは確実なので効果は薄いだろうが。
だからこそ、一度表舞台に上がると決めたなら最低でもAランクギルドと肩を並べるくらいにはなっておかなければならない。
それくらい出来なければラスダンはおろか大ダンジョンも攻略出来ないだろうしな。
しばらくして冒険者ギルドの職員が戻って来て、無事ギルドとして活動する認可が降りたと伝えられた。
俺たちに与えられたギルドランクはC。
ランクはE~Sまであるが、初期値としてはCが一番上になる。
石紅の根回しとAランクのメアの存在、そして何より大ダンジョンの深層に潜っている実力が評価された結果だ。
そして何より、Cランクはランダムダンジョンの攻略権利を得られる最低ランクでもある。
「ここまでは目論見通り。後は運の勝負か」
賭けのテーブルにはついたが、ルーレットを回してみなければダンジョンに行けるかどうかは分からない。
ランダムダンジョンの攻略報酬は激ウマなので、挑戦権は公平になるよう冒険者ギルドが分配するのだ。
「ま、その辺りは私の腕の見せ所だね。係の人抱き込んで上手く回してもらうか、いっそ冒険者ギルドの内政ごと掌握しても……ぐふふ、ほんとは政治家とかちょっと興味あったんだよねぇ」
交渉術の鬼が本気になっている。
というか石紅が政治家になったら本気で日本が変わってしまいそうで少し怖い。
とはいえ、
「これは……決まりかな」
企む石紅を眺めながら、俺は呟く。
もはや冒険者ギルド側が哀れなくらいだ。
「ねえ葛西」
夕暮れ。
冒険者ギルドから宿屋へと帰る、にぎやかな表通り。
「私決まった後に見たんだけどさ……なにあのギルド名」
先を歩いていた石紅が振り返り、尋ねる。
表情こそ笑顔だがその目は怒りに満ちており、声がやや震えている。
「いやだって……他の連中みたいに竜だの剣狼だの呼ばれたら恥ずかしくて死ねるだろ……」
例えるなら小学校の時に使っていたドラゴンの描かれた習字セットや、観光地で売っている剣のキーホルダー、英字まみれの中学生Tシャツ。それを日常的に身に付けているレベルの恥ずかしさだ。
いい年した大人がそんなの絶対無理。
ネトゲのギルド名ですら共感性羞恥できついと思っていたのに、現実で卍最強剣士団卍の葛西鴎外さんです!みたいな名前で紹介されたら軽く死ねる。
「だからってさあ……『有限会社石紅』ってなに!? いつから会社になったの!?」
「この世界の制度的に株式会社は難しそうだなぁと」
「そういうこと言ってるんじゃないんだけど……ていうかなぜ私の名前!?」
「だってギルマスお前だし。仕方ないだろ」
俺は口元の笑みに気付かれないよう、少し早足で歩く。
「絶対嘘だ……ノルミナの街でのこと根に持ってるんでしょ? そうなんでしょ!」
尚も詰め寄って来る石紅。
俺は振り返り、足を止め、
「当たり前だろ!? なんだよ道具屋KASAIって! お前も俺と同じ辱めを受けやがれ!」
今回のギルド名、色々理由はつけているが完全にただの報復である。
別に最初からこうしようとしていたわけじゃない。
何故か総じて名づけが苦手だった俺たちはいいギルド名が思い浮かばず悩んでいると、石紅が「またKASAIでいいんじゃない?」とか言い出したのだ。
そこで問い詰め、ノルミナの街に出した店の名がKASAIだと発覚。
復讐に心を燃やした俺の手によってギルド名が独断で決められ今に至るというわけだ。
「うう……せめてローマ字の方がましだったよ……会社は酷いよ……」
先にやったのは自分だと自覚している為それ以上は突っ込んでこず、石紅は諦めた様子でトボトボ歩いている。
ていうか気にするのそこかよ。
「しゃきっとしろよ。忙しくなるのはここからなんだからな……頼りにしてるぜ、社長」
俺はポンと肩に手を置いてニヤニヤしながらからかう。
「ぐぬぬぬぬ……もういいよ! 葛西のバーカ! メアさんにあることないこと吹き込んでやるんだから!」
「ちょ、待て! せめてあることだけにしてくれ!」
調子に乗り過ぎた俺への制裁は重かった。
その後、石紅の話を聞いたメアによって俺は一晩中正座で説教を喰らった。
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