第4話 食料探しと初戦闘
さて、サバイバルの基本の一つ、食料探しの時間だ。
とはいえ闇雲に突き進むわけにはいかない。それなりに発展した拠点を失いたくはないからな。なので、鋭く尖らせた太めの枝で等間隔に印を刻みながら進む。
「んー、これも見た目は食えそうだけどちょっと怖いよなぁ」
一応、ここまでの道中でココナッツみたいな固い実と、ピンクのブルーベリーみたいな木の実は見つけた。
だが実際食えるのかどうかは分からない。一応少量採って帰り道に置いておいたが、もう少し別の食べ物も探しておきたい。
「理想は魚だよな、鹿とか熊は……ギリ行けるか? でもウサギは絶対食べたくないしなぁ」
魚は一応釣りをしたこともあるし、きま〇れクックとかで捌くのも見慣れているから抵抗はない。
問題は獣を狩る場合だ。
森の生き物はつぶらな瞳をしていて、結構可愛いのが多いのだ。
しかも俺は、小学生の時にウサギを飼っていた。
めちゃくちゃ溺愛していたし、天寿を全うした時は号泣して向こう数年落ち込んでいた。
だから少なくとも、ウサギを食べるのだけは生理的に受け付けない。
この矜持を曲げるのは、本当に命の危機に瀕した時だ。最後の手段だ。
「後は、食べれる魔物とかか? そもそも魔物がいるのかどうかも分からんが」
魔法があるのだから魔物もいるだろう、とは思うが、絶えず火を起こしていたおかげか今のところ一体も見ていない。
因みに虫は言わずもがなNGだ。昨日一日でそこらにいる分には結構慣れたが、都会っ子に虫を取って食べろというのは無理があるだろう。
まあカルシウムとか豊富らしいし、蛇とかはたんぱく源にもなる。ウサギを食べる前の、最後の一つ前の手段だ。
我ながらこんな森の中で選り好みをするのはどうかと思うが……所詮夢だしな。嫌な事をするほど生き汚くはなる必要はない。
俺は束の間の余生を楽しく過ごしたいのだ。
そんなこんなで一時間くらい森を彷徨い歩いていると――いた。
「あれは、猪か……?」
木々に遮られた視界の奥で、子供用自転車くらいの獣がうごめくのが見えた。
近づいてみると、猪のようだと分かる。だが、
「……普通の猪は絶対あんな角生えてないよなぁ」
声を殺して呟く。
よく見れば、猪の額にはうねうねと曲がった頑丈そうな白い角が生えていた。
現実の動物では見たことがない。アニメとかで悪魔が生やしてそうな、結構禍々しい奴だ。
暫定的にツノ猪と呼ぶことにしよう。
「今の俺の風魔法なら……いけるか?」
一撃でそこそこの太さの木を切り倒せる魔法だ。生物に向ければひとたまりもない、と信じたい。
「ま、ここで引くって選択肢はないがな」
せっかくの異世界だ。魔物と戦わずして目を覚ますなんて勿体ない事が出来るか。
「いくぜツノ猪。てめえを拠点の焚火で丸焼きにしてやる! 風ぇぇえええっ!」
俺は素早く木陰から飛び出し、風魔法を使った。
形は出来る限り大きく、鋭く、威力は最高で。
魔法はツノ猪へと一直線に飛び、直撃し――盛大にツノ猪を吹っ飛ばした。
「は?」
思わず間抜けな声が漏れる。
俺はあいつを一刀両断するつもりで魔法を放った。だが、毛の一本すら切れはしなかった。
本来の効果が発揮されていない。それはつまり、奴が抵抗手段を持っていたという事だ。
「やばいやばいやばいやばい。あいつ、もしかして魔法耐性が高いタイプか!?」
だとすれば今の俺には対抗手段がない。このままだとやられるだけだ。
そう焦ったのも束の間。
ツノ猪は、想像より遥かにえぐい速度で吹っ飛んでいた。くるくるときりもみして弧を描き、ずがん!と凄い音を立てて大木に頭から激突。そして数秒痙攣しそれきり動かなくなった。
仕組みはよく分からないが、斬撃は殺せても風圧は殺せなかった、という事なのだろう。
「死んだのか……?」
一応死んだふりという可能性もある。俺は持っていた先を尖らせた枝で目玉を突いてみた。だが、ツノ猪はぴくりとも動かない。
ゆっくり近づいて触れると、完全に鼓動が止まっていた。
「何とかなった……のか?」
やや釈然としないながらも、俺は安堵し胸を撫でおろす。
運がよかった。落ちた先が柔らかい地面ならあるいは致命傷には至らなかったかもしれない。
「いくら夢とはいえ、相手の強さも分からないのに戦いを挑むのは軽率だったな……」
サイズとツノ猪というさも序盤に出て来そうな見た目で油断した。
魔法耐性。まさか最初の敵がそんな天敵みたいな性能を持っているとは。
あるいはもしかして、魔物は一律である程度の耐性を持っているとかなんだろうか。
「反省しよう。ここは異世界だ、木を切り倒せるくらいで調子に乗るべきじゃなかった」
いくら成長株とはいえ、魔法を使い始めてまだ二日目だ。
慢心した奴が真っ先に死ぬのは、ホラー映画でもお約束だというのに。
「……ま、結果オーライとはいえ食料は手に入ったしな。いったん戻るか」
俺は持ち帰るべくツノ猪の体に手を掛けて、あまりの重さに断念。
土魔法でタイヤのついていないリアカーのような形を作り、それを引き摺って拠点に帰った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます