第11話 脱出

それからも、日にちはたっていった。カールからは、相変わらず電話がかかってくる。でも、何を言ってるのか頭に入ってこない。私は、うけこたえをしているのかしていないのかわからないまま、数分後には電話は切れる。そういえば、彼にあったのは最初の日だけだ。いつ番号を教えたのだろうか。

電話?そういえば、もう一つあった。枕元にある内線電話だ。具合が悪くなった時に、かけるように説明があった。番号は何だっけ?書き留めていたはずだ。1256。島の数。指が自動的にその番号を押した。しばらく、呼び出し音が鳴った後。ガチャリと音がして、相手が出た。

「おかえり。よく頑張った。」

佐久間さんだった。涙が出てきた。

「佐久間さん。ホント、もうダメかとおもいました。」

「ここはどこですか?」

「横浜。ただのビジネスホテルよ。」

日本。ならどうして佐久間さんがいるんだろう。

「佐久間さん、アメリカで仕事してたんじゃないんですか。なぜ日本にいるんです。」

「ゆきちゃんと一緒に、飛行機で帰ってきたのよ。さとがえりもかねて。」

「私と一緒に?」

「ゆきちゃん、完全に取り込まれなかった。だから、こっちでも少し意識が残ってた。だから、連れてきたのよ。ゆきちゃんが入った物語の出口があれば、ここ横浜だと知ってたし。」

知ってた?

「何故ですか?」

「ゆきちゃん。中で、物語の外の人と会ったでしょう。その人に聞いたの。」

ああ、いたな。名前は思い出せないけど。

「お礼言わないと。」

「気にしなくていいわよ。向こうもあんまり覚えてないと思うわ。ところで、調子はどう。」

「いいですよ。前みたいにふわふわした感じがなくなりました。」

「じゃあ、動けるわね。これからどうする。家に帰るか、アメリカに行くか、物語に戻るか。」

「家に帰って、チイに会いたいですね。早く。」

「そう。じゃあ、新幹線でいい?もう飛行機は、お尻痛くって。」

佐久間さんが、電話の向こうで伸びをする気配がした。

「いいですよ。」

「よし、じゃあ、お昼は、駅の近くのレストランで食べましょう。」

「いいですね。」

「じゃあ、ロビーで待ち合わせ。」


ドアを開けた。いかにもビジネスホテルの廊下といった感じだ。廊下を歩き出す。閉めたドアの向こうの部屋で、電話が鳴っている。スマホ?いいや。あれは私のじゃない。


エレベーターのボタンを押す。下向きの矢印。到着したエレベーターには、知らない年配の男の人が一人。会釈をして乗る。一階へのボタンはすでに押されている。黙ったまま。すぐに一階に着いた。ロビーを見渡すと、佐久間さんがいた。


「おかえり。もうすぐタクシーが来るから、駅に行きましょう。ほら、ゆきちゃんの荷物。」


小さめのリュックを突き出された。私のものだ。

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