第8話 犠牲者
亡くなった人が出たのは、最初の放送から、3日後のことだった。高熱が、出たと思ったら、あっという間になくなったそうである。乗客同士の交流は禁じられていた。だから、私のところに回ってくる医師や看護師から聞いたことだ。食事もカート乗せられて、各部屋に配膳される。
配膳係は、私たちと接触しない。初めは、雑談程度してくれていた人もいたが、配膳係の中から、感染者が出たことにより、乗客との接触は一切無くなってしまった。配膳係からの感染を恐れてか、配膳係が乗客からうつされるのを恐れてかは、わからない。気の利いた連中は、部屋の内線電話で、仲間内と話したり、携帯で会話をしているようだ。
私はといえば、カールから電話がかかってくる以外は誰からもかかってこない。あまりに退屈なので、初めは鬱陶しかった彼からの電話が、待ち遠しくなってきた。やばいな末期症状だ。手持ちの文庫も読み切ってしまったし、健康なのに寝続けていることにも疲れてきた。天井の縞模様の数を数え始めたのは、一週間目くらいか。初めは、何回数えても同じ数にならなかったが、3日も過ぎると何回数えても、1256本になった。
隣の部屋の住人が、亡くなったって聞いたのは、さらに5日が経っていた。このフロアの感染者が増えているって聞いて、3日も経ってない。ダクトかなんかが繋がってるのが原因だろうか?などと考えていたが、私たちの担当の看護師がたおれたときいたのは、その日の夕方だった。正直、この部屋を出れるのなら、感染者になるのも悪くないなんて考えが出てきたところだったので、背筋が冷えた。
私は、なぜこの船に乗っているのか。チイに会いたい。
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