第6話 Queen Elizabeth II

海が見える。どういうこと?洗面所に入ったはず。

海?いや、ホテルから見えた海とはぜんぜんちがう。遥か彼方まで、海しかない。その向こうは空と接してる。水平線?後ろを振り返る。開けっぱなしのドアの向こうは、さっきまでの部屋じゃない。廊下っぽい。潮風が、顔を触る。廊下の向こうの窓から見える景色は、同じく水平線だ。船?海の上?

「どこ、ここ?」

とりあえずつぶやいてみた。そうだ、佐久間さん。

「佐久間さん。」

声に出した。周囲を見渡しても、それらしき人はいない。

「オー、ゆきこさん。あなたもこの船に乗ってたのですか?」

男の人の声だ。

「カール!」

この人、ホテルのロビーにいた。かっこいい人だ。名前は。え、カール。今咄嗟に名前が出たことに、遅れて気がついた。カール。そう、この人はカールだ。

「カール。佐久間さん知らない?」

でも、この人は確か不自然な家の住人だったはず。

「ゆりですか?ゆりもこの船に乗ってるんですか?」

この人、佐久間さんのことは知ってる。

「探してるの。さっきまで一緒にいたのに、はぐれちゃって。」

「え、そうなんですか。確か港に見送りにきてくれてましたが、あのまま乗っちゃったんですか。」

港?そういえばそんな気がする。紙テープを持ってもらった様な。

「カール。あなた不思議な家の中の人じゃなかったっけ。」

彼の表情が消えた。その瞬間、潜ってきたドアの向こう側の景色が、色を塗る様に変わった。佐久間さんがいる。何か言ってる。次の瞬間それは、もとの水平線に戻る。

「不思議な家?何ですそれ。」

何って?何だろ、確か。

「思い出せない。ここどこ?」

怪訝そうな表情。

「Queen Elizabeth Ⅱ のデッキですよ。豪華客船の。日本に向けての航海中です。もう三日目ですかね。」

誇らしげに、カールが言った。続けて。

「ゆきこさんは、お疲れですね。自分の部屋で少し横になった方がいい。」

目の前がクラクラしてきた。


「部屋、どこだったけ?」

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