第4話 モヤ!
「どこかのレストランで、誰かと食事したですね。」
思い出した。
「誰と?」
「さあ?」
肩をすくめながら言った。
「他には、何か覚えてることない。」
「うーん。天井見てましたね。一人で。ひどく不安でした。」
まるで、閉じ込められてる感じだった。
「その部屋、狭いくせにトイレもお風呂も部屋の中にあるんですよ。でっかいテレビも。」
「ビジネスホテルみたいね。」
佐久間さんが言う。
「それから、そう。なんか微妙に揺れてました。」
船。船だ。それも大きな。
「大きな船の中でした。」
「その船って、もしかしてこれ?」
佐久間さんがスマホで写真を見せてくれた。
「ああ、これですね。」
豪華客船だ。外見はともかく、その内装は記憶があるものばかりだ。
「この船、航海中に、船内で感染症が蔓延して、乗ってた人の半分が罹患、1割程度がなくなったの。」
「最近の話ですか?」
「4、5年前かな。その後、廃船になったって聞いたから。ゆきちゃんがこの船乗って、アメリカに来れないとは思うけど。」
まあ、こんな船に乗って優雅に、アメリカに来る金も時間もない。でも。
「じゃあ、何で、私が言ってるのがその船のことだと思ったんですか?」
「最近くる患者さんでこの船に乗ってたって言う人がチラチラいたから。もしかしてって思って。」
患者?そうだ佐久間さんは、精神科クリニックに勤めてるんだった。さっきのカールもそうなのかな?ちょっとお医者さんにも看護師にも見えないけど。
「じゃあ、私も何にかの病気なんですか?」
「ゆきちゃん、もしかして不思議な家にいたんじゃないの?」
「なんですそれ?」
いや、知ってる。
「あのちょっと世間が嫌になった人が籠る家ですか?」
「アハハ、独特の言い回しね。そうねその家。」
「じゃあ、あり得ないこの記憶の断片は、そこでの記憶ですか?」
「かもしれないわ」
「でも、まだでたばっかりだから、さっきみたいにまだ中にいる人たちから声をかけられるのよ。」
さっきみたいに?誰のことだろう。でも。
「中にいる人達は、外にでてくるんですか?」
「逆、ゆきちゃんがまだ、半分、いや片足だけかもしれないけど、向こう側にいるのよ。」
ゾッとする話だ。
「まだ、あっちの物語と繋がってるのよ。」
なるほど。いや、よくわからないけど。
「一緒に、いた人が何人もいたんですか?」
「何人いたのかわからないけど。だいぶ抜け出してきてるわ。さっきのカールみたいに。」
「え、あの人も引きこもりですか?そうは見えないですけど。」
「引きこもりとはちょっと違うかな。自分に自信がありすぎる人もけっこう家の中には多いわ。逆に自分に自信がない人は、あの家には少ないかも。」
「なんでですか?」
「自分の物語が本当かどうか疑うから。そういう人は、ここは本当に自分がいていいのか常に考えてるからね。」
めんどくさそうな生き方だ。
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