除霊
遠藤
第1話
アニメ、ドラゴンボールのオープニング曲のラスト「Sparking!」に合わせて
思いっきりお尻を掌で叩いたら、その勢いのまま襖を蹴破った。
ここはたしか賃貸だったよなと浮かぶと、これは悪い霊の仕業だと感じた。
私は急いで近所の中華料理屋に電話した。
50コール目でやっと電話に出る。
大手のお客様センターよりかなり早い。
「ハイ、ペキンハンテン・カンデン、なんでやねん!」
「霊媒師一つお願いします」
「ラジャ」
名前も住所も一切教えず私は電話を切って、まだかまだかと目覚まし時計を2メートル離れた位置からチラチラ見た。
ほどなくして、ベランダの網戸が叩かれた。
霊媒師だ。
私は急いで窓の鍵を開け霊媒師を招き入れた。
霊媒師は室内に一歩足を踏み入れた瞬間に固まりながらこう言った。
「・・・臭いですね」
そういえば、ここは3階のはずと私は思いながら、やはりプロは一味も二味も違うなと恐れ戦きながら、霊媒師の汚れて穴が開いた靴下に感謝した。
ウーバーのようなリュックを降ろすと霊媒師は質問してきた。
「ここの間取りは何ですか?」
私はやはり霊媒師は凄いなと思いながらモジモジして答えた。
「1DKだよ♪」
すると霊媒師は激昂してこう言った。
「嘘は駄目だ!嘘だけは駄目なんだよ、そうなんだよホタテ貝」
逆らう気はなかったが私は正直に答えた。
「だってさー、不動産屋のおっさんがさー、1DKだって言ってたもん」
すると霊媒師は、3日前からそこにあった飲みかけの炭酸水をグイっと飲んで吐き出すとこう言った。
「DK何畳?感情?誕生」
私はさっき鼻に丸めて突っ込んでいたティッシュを鼻息で吹き飛ばすと笑顔で答えた。
「4.5畳くらいだと思うよ」
それを聞いた霊媒師はガタガタと震え始めた。
「うわっ!怖い、怖い、怖い、微妙、怖い、微妙、どっち?ねえK・DKどっち?」
霊媒師は慌てて私から携帯を奪うと番号を押して私に返した。
そして電話を耳に当てるようにジェスチャーする。
どこかに掛かっているようだ。
やがて電話の相手が出た。
堰を切ったように私は電話の先の相手にこの感情をぶつけた。
「あなた今どこにいるのです?私はここに一人残され今道に迷った状態で早7日」
霊媒師が自分の電話で答える。
「神はこの世の全てを愛しておられます。さあ、歌うのです。あの歌を」
二人は目と目を合わせ静かに歌い始めた。
「いつまでも、耐えることなく、友達でいよう、明日の日を夢みて、希望の道を・・・」
私の頬に涙が伝うのをみて、霊媒師は優しく言った。
「1平米800円からです」
私は頑張って計算した。
たしかこの部屋は18平米だから・・・。
「26万円?!」
私は驚いた。
これをボッタクリと言わず何て言うのだろう。
私は抗議した。
「いくらなんでもそれはないんじゃないですか?せめて1平米1800円になりませんか?」
霊媒師は、参ったなとアメリカンのような大げさなボディーランゲージで感情を表現しながら私の耳元で囁いた。
「今ならリボ払いも可能です」
さらに勢いに乗った霊媒師は汚れた靴下を脱ぐと、それを冷凍庫に入れ、戻りながらこう付け加えた。
「今なら友達3人紹介で全額キャッシュバック!」
私は玉ねぎを手に取るとそのままガブリと齧りついた。
(北海道のシジミはデカい!)
まさに契約成立の瞬間であった。
霊媒師は、うんうんと納得するように私の靴下を履くと玄関から帰っていった。
静けさを取り戻したこの部屋に残された私は、あらためて今日という日を思い返してみるのだった。
(たしかコンビニで水道代を払おうと支度をしている途中、そう言えば自分にはキューティクルが足りなかったんだっけと思い出し、それだったら滝を見に行こうとラーメンを作り出したところでスタン・ハンセンのウエスタン・ラリアットを食らったような衝撃でトウキビを食べたんだよな・・・)
私は、また今日という日を無駄にしてしまったと反省しながら、キッチンに布団を敷いて眠ったのだった。
除霊 遠藤 @endoTomorrow
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