第三十八話 そのポーター、裏切り者(?)がいると勘ぐる

「そ、それがお前の真の正体……なのか?」


 僕がおそるおそるたねずると、ヌイグルミみたいなコウモリ――ああ、もう長ったらしいのでヌイモリと呼ぶことにしよう。


 そんなヌイモリは「そうであ~る!」と高らかに言った。


「これが吾輩の真の正体――実は魔人なのであ~る! どうだ、カンサイ! 吾輩のあまりの強そうで恐ろしい姿にビビってオシッコを漏らしそうなのであろう?」


 ごめん、全然強そうにも見えないし恐ろしくもない。


 だからビビりもしないし、オシッコも漏らさないよ。


「ふふふ……そうか、そうか。やはり吾輩の真の姿は人間には強烈だったか。だが、この姿になったからにはもう容赦はしないのであ~る。色々とお膳立てをしたのも、すべては吾輩の仲間の仇をここで討ってやるからなのであ~る」


 ん? 吾輩の仲間ってどういうこと?


 それに仇を討つということは、以前に僕がヌイモリの仲間にひどいことをしたってこと?


 このとき、僕は「はて?」と首をかしげた。


 そういえばあの愛くるしいヌイモリの姿と、あの独特の喋り方は以前にどこかで聞いたような気がする。


 あれは一体どこだっただろうか?


 数ヶ月前というわけではなく、ここ最近だったような気がする。


「そういうわけで覚悟しろ、なのであ~る! 吾輩の仲間――ルイボ・スティーの無念をここで晴らしてやるのであ~る!」


「――――あッ!」


 僕はルイボ・スティーという名前を聞いて思い出した。


 バルハラ大草原で倒した魔人の名前が確かルイボ・スティー。


 そしてルイボ・スティーを〈神のハリセン〉で倒そうとしたさい、ルイボ・スティーの肩に止まっていたヌイグルミのようなコウモリがどこかへ飛んでいくのを僕はバッチリと見ていた。


 まさか、ヌイモリはあのときのコウモリなのか!


 いや、そうだ。


 よくよく思い出してみると、あのとき逃げ去ったコウモリと数メートル前方にいるヌイモリの姿はそっくりだった。


 何てことだ。


 本当にカントウ・ウメダ――もといヌイモリは僕と関係があったのか……。


「ふむ、ようやく奴の正体に気づいたようじゃな」


 僕にそう言ったのは、いつの間にか横に立っていたカーミちゃんだった。


「カーミちゃんは知っていたの? あいつがバルハラ大草原で魔人と一緒にいたコウモリだと」


「わしだけじゃない。他の奴らも気づいておったぞ」


「嘘? どうやって?」


 僕はローラさんとクラリスさまを交互に見た。


「トンネル内のコウモリを見て、それからカンサイさまの姿に化けていたカントウの肩にコウモリが止まった光景を見たとき何となく気づきました。あのカンサイさまの偽物はバルハラ大草原でどこかへ飛んで逃げて行ったヌイグルミのようなコウモリかもしれない、と」


 ローラさんは「まさか本当だったなんて」と言う。


「ええー、普通はそれだけじゃ気づかないよ!」


「私もカントウの肩に止まったコウモリを見たとき確信しました。奴はバルハラ大草原でいずこかに逃げた、ヌイグルミのような姿のコウモリの化身だと」


 クラリスさまは「もっと早く気づいていれば」と悔しそうな顔をする。


「いやいやいやいや、それだけの情報では絶対に気づかないと思うよ!」


「何をゴチャゴチャ言っているのであ~るか!」


 僕たちが喋っていると、翼を羽ばたかせて空中を飛んでいたヌイモリが叫ぶ。


 そんなヌイモリは飛んではいるけど、自由に飛び回っているわけじゃない。


 地面から150センチほどの空中に留まるようにして翼を羽ばたかせている。


 うん、ちょっと可愛い。


 何てことを思ったりもしたとき、ふと僕の脳裏に疑問が浮かんだ。


 そう言えばあいつはどうして僕たちがここに来ることを知っていたんだ?


 考えれば考えるほど不思議である。


 明らかにヌイモリたちは僕たちを待ち構えていた。


 そんなことは事前に情報をつかんでいなければ絶対に不可能なことだ。


「どうあがいたところで、お前たちはここで死ぬのであ~る。ふふふ、吾輩はルイボ・スティーのように簡単にはやられないのであ~る。なぜなら、カンサイ。貴様が今はルイボ・スティーを倒したときのような力が使えないことを吾輩は知っているからなのであ~る」


「な、何だって!」


 ヌイモリの言葉に僕はびっくり仰天した。


「ど、どうして……」


「どうしてかって? そんなものは決まってい~る。カンサイ、貴様たちの情報を吾輩たちに伝えた人間がいるからなのであ~る。それもここにいるのであ~る」


 僕たちの情報をヌイモリに事前に伝えた?


 つまりスパイがいるってこと?


 それも、その人物はここにいる?


 直後、僕はその人物に顔を向けた。


 僕との付き合いの長さと信頼度の高さ、それらを総合してこの3人だけは絶対に違うと判断した。


 ちなみにその3人とはカーミちゃん、ローラさん、クラリスさまの3人だ。


 だとすると、この場に残っているのは――。


「なあ、正直に答えてくれ。君は僕たちがここに来るという情報をヌイモリに売ったのか? 答えろ、ハルミ!」


 僕の視線の先にいたハルミは、口の形を半月状にして笑った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る