第三十七話 そのポーター、カントウ・ウメダの正体を知る

 あいつがカントウ・ウメダだって?


 僕は完全なパニックに陥りながら、したり顔をしているカントウ・ウメダの顔を食い入るように見る。


 どう見ても顔は僕だった。


 それは間違いない。


 そして僕にそっくりなのは顔だけではなく、身長や体格もそうだった。


 まさに僕――カンサイ・ウメダがこの場に2人いるという状態だ。


「ふふふ……君の考えていることなどお見通しだよ、カンサイ。君は僕が誰だかわからなくてパニックになっているね?」


 当たり前だ。


 自分と瓜二つな人間を前にして、パニックを起こさずに心を冷静に保てるわけがないだろう。


 くそっ、一体あのカントウ・ウメダは何者なんだ?


 僕が歯噛みしていると、カントウは「だったらヒントをあげよう」と笑った。


 すかさずカントウは右手の人差し指の腹と、親指の腹をこすり合わせてパチンと音を鳴らす。


 すると、どこからか1匹のコウモリが飛んできた。


 そのコウモリはカントウの肩に止まる。


 カントウは驚きもせず、そのコウモリの頭を優しくなでた。


「どうだい? これで僕の正体がわかっただろう?」


 わかるかあああああああああああああ――――ッ!


 僕は心中でカントウにツッコミを入れた。


 1匹のコウモリが肩に止まった光景を見て、その人間の正体などわかるはずがないだろうが。


 しかし――。


「え? まさか……」


 ローラさんはなぜかカントウの正体を見破ったような声を上げた。


 ほえ? ローラさん、マジでコウモリだけでカントウの正体がわかったの?


「なるほどな……そういうわけか」


 次にカーミちゃんもカントウの正体を見破ったような声を上げる。


 嘘でしょう、カーミちゃん。


 僕にはどういうわけかさっぱりだよ。


「おのれ、すべてはあのときから繋がっていたというわけか」


 クラリスさまは悔しそうな顔をする。


 待って待って、クラリスさま。


 何がいつからどう繋がっていたの?


 そのとき、僕はハッとしてハルミに顔を向けた。


 まさか、ハルミまでカントウの正体を見破ったみたいなことを言うんじゃないだろうな。


「あれが勇者さまの偽物のカントウ・ウメダ……顔や身体はそっくりですが、やはり本物の勇者さまには遠く及ぼないです。本物の勇者さまのほうが何十倍もカッコいいですよ」


 ハルミは馬鹿みたいな笑顔で僕にウインクしてくる。


 それを見て僕は心からホッとした。


 どうやら蚊帳かやの外にいるのは僕だけじゃないようだ。


 そんなことを僕が考えていると、カントウは両肩を上下するほど笑った。


「カンサイ、その顔を見ればわかるよ。他の奴らはわからないようだけど、君だけは僕が誰なのかわかったようだね」


 いやいやいや、僕は全然わかってないよ!


 わかったのは僕の仲間たちのほうだよ!


 僕は浜辺の砂粒ほども君の正体がわかってないよ!


「だったら正体を隠すのはもうやめようか。そうさ……僕の真の正体はこれだ!」


 ボンッ、と火薬が爆発したようにカントウの全身が煙に覆われる。


 僕たちは何が起こったと目眉をしかめる。


 やがてカントウの全身を覆っていた煙が晴れたとき、僕はカントウの真の正体とやらを見て無言になった。


「ふふふ、我輩の正体があまりにも恐ろしくて声が出ないようであるな」


 いや、恐ろしいというか何というか……。


 僕たちの前に現れたのは、ヌイグルミのように愛くるしい姿のコウモリだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る