第二十一話 そのポーター、王宮内のパーティーに参加する

 バルハラ大草原の戦いから3日後――。


 僕とカーミちゃんとローラさんの3人はある場所にいた。


 グラハラム王宮の中にある大ホールだ。


 時刻は夜である。


 現在、この王宮では豪華絢爛なパーティーが開かれていた。


 パーティーが開かれていた名目は、〈魔物モンスター大暴走・スタンピード〉によるグラハラム王国の壊滅が回避されたことのお祝いだ。


 そして大ホールには高価なタキシードやドレスに身を包んだ貴族たちが、優雅な音楽をBGMにダンスやごちそうに舌鼓したつづみを打っている。


 え? そんな中に平民の僕たちがいるのは場違いじゃないかって?


 普通ならそうだろう。


 特に僕はタキシードなんて1着も持っていなかった。


 だが、今は違う。


 クラリスさまのありがたい計らいで、1流の服屋さんが仕立ててくれたタキシードを着用している。


 カーミちゃんとローラさんもそうだ。


 カーミちゃんは純白のドレス、ローラさんは真紅のドレスと大変この場に似合う格好をしている。


 正直なところ、パーティーが始まったときの僕はパニックの極みだった。


 当たり前だ。


 こんな凄いパーティーは前世でもこの世でも参加したことがなかった。


 とはいえ、ただじっとしているのも非常にもったいない。


 なので僕はビッフェ式のごちそうを、余すことなく堪能することにした。


 絶妙な火加減のローストビーフ。


 焼きたての白パン。


 魚介のムニエル。


 サクランボやリンゴが入ったタルトなどのお菓子。


 どれもこれも抜群に旨かった。


 ほっぺが落ちるとはまさにこのことか、と心中で叫んだぐらいだ。


 そしてワインやビールなんかも用意されていたが、僕は前世も下戸だったこともあってジュースを飲んでいた。


 しかし、カーミちゃんとローラさんは相当な酒豪だった。


 ワインだろうがビールだろうが蟒蛇うわばみのように飲み干していく。


 しゅ、しゅごい……。


 と、僕が心の底から驚いていたときだ。


「皆の者、聞いてほしい!」


 突如、大ホールに威厳のある声が響き渡った。


 BGMだった音楽は消え、ダンスをしていた人たちは動きをとめる。


 それだけではない。


 威厳のある声を発した主を認識したことで、貴族たちは引き潮のように壁際まで移動していく。


 声を発した主は、王冠と王笏おうしゃくを持つ立派なひげを生やした老人だった。


 僕もすぐにごちそうを食べる手をとめる。


 平民だった僕もよく知っていた。


 アーカード・フォン・グラハラム。


 老人はこのグラハラム王国の現国王さまだ。


 そして国王さまの隣には国王さまが着ている服の色と同じく、高貴な色とされる紫色のドレスを着たクラリスさまがいた。


「楽しんでいるところ悪いが、えんもたけなわなこの辺りで皆に聞いてほしいことがある!」


 ずいっと前に出た国王さまは、真剣な表情で大ホールの中を見渡した。


「こたびの〈魔物モンスター大暴走・スタンピード〉によって、我がグラハラム王国は建国以来の窮地に陥った! しかし、我が国の精鋭である騎士団たちによって危機は免れた! これは大変に喜ばしいことである!」


 貴族たちは嬉しそうにうなずく。


「だが、脅威だったのは〈魔物モンスター大暴走・スタンピード〉だけではなかった! 何とあの場には魔人もいたというのだ!」


 魔人という言葉に大ホール内はざわついた。


「ま、魔人だって!」


「そんな嘘でしょう!」


「魔族の中でも特質した力を持った存在と聞くが……」


「本当に実在していたのか」


「でも、魔人がいたのでは騎士団は全滅していたはず」


 どよめく貴族たちに国王さまは「静まれ!」と一喝する。


「確かにあの場には魔人が存在していた。けれども、それは過去のこと。あの場にいた魔人は、騎士団ではない1人の英雄によって木っ端みじんに倒されたのだ!」


 そのとき、大ホール内のどよめきは頂点を迎えた。


「まさか、騎士団以外にそのような者が!」


「一体、誰なんだ!」


「まさか、冒険者か!」


「それとも賢者クラスの魔法使い!」


「いや、有名なスキル使いかもしれんぞ!」


 直後、国王さまは僕に向かって王笏おうしゃくを突きつける。


「紹介しよう! あの者が魔人を倒した若き英雄――カンサイだ!」


 全員の視線が僕に一斉に集まった。


 うん、かなり恥ずかしい。

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