第十八話  そのポーター、ついに魔人の姿を目撃する

「魔人を僕が倒しに行くの?」


 僕の質問にカーミちゃんは「他に誰がおる?」と訊き返してくる。


「わ、私は無理です」


 と、僕の隣にいたローラさんが申し訳なさそうに言う。


 いやいやいや、誰もローラさんに白羽の矢を立てるつもりはないからね。


 とはいえ、さすがの僕もそんな役目はご免こうむりたい。


 なので僕はカーミちゃんにおそるおそる訊いた。


「ねえ、カーミちゃん。さすがに魔人を倒すのは無理じゃない? だって相手は魔人だよ? 普通の人間なんて足元にも及ばない存在だよ?」


「ならば、お主の存在も〝魔人〟ということになるな。何せ【神のツッコミ】スキルを発動させたときのお主の実力は、普通の人間の力をはるかに超越しておる。普通の人間から見れば魔人と呼んでも差し支えないじゃろ」


「それは違うぞ!」


 僕とカーミちゃんが喋っていると、横からクラリスさまが割って入ってきた。


「カンサイ殿が魔人と同等に扱われるとは心外だ。カンサイ殿は英雄であり、魔人というよりは神に近しい存在だ。いや、きっと神そのものに違いない」


「あいにくと神はわしのほうなんじゃが」


 カーミちゃんが小声でツッコんだのも束の間、僕たちの周囲をこの場に残っていた騎士団の人たちがあっという間に取り囲む。


 聖乙女騎士団の女騎士さんたちだ。


 え? どうして他の騎士団たちと違って、聖乙女騎士団がここにいるのかって?


 うん、詳しく解説しよう。


 さっき僕の【神のツッコミ】スキルで潜在能力を開花されまくったのは4つの騎士団の人たちだ。


 朱雀騎士団×100名。


 青龍騎士団×100名。


 白虎騎士団×100名。


 玄武騎士団×100名。


 この合計400名の男だけで構成された騎士団たちね。


 そしてその騎士団たちは、半ば狂戦士みたいな状態になって魔物の群れに突撃していった。


 でも、聖乙女騎士団の人たちは僕から力を得られずにその場に残った。


 なぜ、聖乙女騎士団の女騎士さんたちは力を得られなかったのか?


 理由は簡単。


 僕の嘘に対してを入れなかったからだ。


 僕以外の人が【神のツッコミ】スキルの恩恵を得る場合は、僕の発言に対してツッコミを入れるというのが条件らしい。


 だけど聖乙女騎士団は僕の実力を前もって知っていたので、僕が大賢者のチンチン・カイカイさまを超える実力者だと聞いて「嘘ではない」と思ってツッコミを入れなかったという。


 アリッサさんとユルバさんもそうだ。


「話は聞かせてもらったっス。カンサイさまは魔人を倒しに行くんスよね? だったら、うちらもお供させてください。カンサイさまの盾ぐらいにはなるっスよ」


 アリッサさんは快活に笑いながら自分の胸を叩く。


「………………………………ユルバも……がんばる」


 ユルバさんも小さくうなずく。


 それだけではない。


 僕たちを取り囲んでいる聖乙女騎士団×100名も「カンサイさまのためなら火のなか水のなか!」とカルト教団の信者のように言葉を繰り返している。


「モテモテじゃな、カンサイよ」


 ニヤニヤと笑いながら言ったのはカーミちゃんだ。


「さて、どうする? この女子たちの期待をあっさりと無視するのか?」


 僕は口元を押さえて「う~ん」と唸った。


 さっきは弱腰になってしまったが、僕だって1人の男だ。


 ここまで期待と羨望の眼差しを向けられたら、それに応えたいと思ってしまう。


 いや、思うだけじゃなくて応えないといけないんじゃないか。


 そうこうしている間にも、僕を鼓舞する声は高まっていく。


 やがて僕は覚悟を決めて周囲を見回した。


「わかった、僕はやるよ! 魔人なんてケチョンケチョンに倒してやる!」


 キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアア――――ッ!


 僕が魔人を倒す宣言をすると同時に、聖乙女騎士団から沸いた黄色い声と拍手が大気を震わせた。


 その直後だ。


「フハハハハハハハッ、面白いことを言う人間だ! 誰が誰を倒すだと!」


 どこからか人を小馬鹿にする甲高い声が聞こえた。


「誰だ!」


 僕は声がしたほうに顔を向けた。


 他の人たちも声がしたほうに視線を向ける。


 全員の意識が向けられたのは上空だ。


「あいつは……」


 僕の視界に飛び込んできたのは、地上から数十メートル上空に飛んでいる人型の物体だった。


 人間のような形をしているが人間じゃない。


 ウニのように何本も尖った白髪。


 幽鬼のような青白い顔。


 漆黒の鎧の上からでもわかる、しなやかで頑強そうな筋肉質な体型。


 ここまでの容姿だったら、まだかろうじて人間の男と判断できる。


 でも、その人間の男のような物体には巨大な翼が生えていた。


 まるでコウモリの翼だ。


 その翼を羽ばたかせながら、人間の男のような物体は空に浮いていた。


 まさか、あいつが――。


「吾輩の名はルイボ・スティー!」


 誰もが驚愕している中、コウモリ男――ルイボ・スティーは高らかに笑った。


「貴様ら人間を恐怖のどん底に陥れる魔人であ~る!」

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