第三話   そのポーター、一夜明けて身も心も本物の男になる

「僕は魔物じゃありません。この姿になったのも、頭の中で謎の声がして――」


 うるさい、とグレンさんは僕の言い分を遮った。


「ごたくは無用! 君みたいな魔物を知らぬとはいえ雇っていたんて【黄金の神武団】の名折れだ! 今すぐここで成敗してやる!」


 僕は激しく動揺した。


 A級冒険者でもあるグレンさんとバトーさんに襲われたらひとたまりもない。

 

 なにせ僕は単なる荷物持ちなのだから。


「死ね、この魔物があああああああ――――ッ!」


 グレンさんが長剣を構えたまま疾走してくる。


 バトーさんもグレンさんに続いて突進してくる。


 殺される。


 僕は自分がグレンさんの剣で斬られ、バトーさんの大盾で圧し潰される光景を鮮明に思い浮かべた。


 だがその瞬間、僕の頭の中に『ピンポーン』という音色のあとに先ほどの不思議な声が再び聞こえてきた。


『――【ツッコミ】スキルの発動完了。ナンデヤネンを試行してください』


 ナンデヤネン。


 魔法の短詠唱とも呼べる心中に響く言葉。


 僕はこの言葉を聞いてすべてを悟ると、何の迷いもなく殺そうとしてくるグレンさんとバトーさんに右手を振りながら言い放った。


「ナンデヤネン!」


 すると僕の右手から黄金色の光の奔流が噴出し、グレンさんとバトーさんの身体を後方の壁まで吹っ飛ばした。


「グアアアアアアアアアアアア――――ッ!」


「ウオオオオオオオオオオオオ――――ッ!」


 グレンさんとバトーさんは喉がはち切れんばかりの絶叫を上げて壁に激突した。

 

 床に落ちた2人の身体は、遠目から見ても悲惨なことになっているとわかった。


 全身打撲どころか、全身のいたるところが骨折しているかもしれない。


 もう冒険者生活どころか日常生活すらも困難になるだろう。


 しかし、僕は2人に何の憐れみも感じなかった。


 むしろこの程度で済んで感謝してほしい。


 僕はグレンさんとバトーさんから視線を外すと、そのまま冒険者ギルドをあとにしようとした。


 こんな胸糞悪い場所には1秒たりともいたくない。


 周囲にいた冒険者たちは今の僕を見て全身を震わせ、誰もが僕の前から慌てて離れていく。


 まるで平原でドラゴンに遭遇したような態度だ。


「お待ちください」


 ふいにローラさんが僕の前に立ちはだかった。


「まさか、あなたも僕を殺す気ですか?」


「滅相もありません!」


 ローラさんは魔法使いの杖を持ったまま僕に抱き着いてきた。


「カンサイ……いいえ、カンサイさまのお姿に惚れてしまいました。これからどこへ行かれるかは存じませんが、どうかこのローラも連れて行ってください」


 抱き着いてきたローラさんからはとてもいい匂いがした。


 桃のような薔薇のような、男の本能を刺激してくる淫靡な匂いだ。


 そんなローラさんはローブの上からでもわかるほど豊満な身体をしていた。


 僕の上半身にローラさんのたわわな乳房がこれでもかと押しつけられてくる。


 ごくり。


 僕の雄としての本能が盛大に目覚めたとき、またしても頭の中に『ピンポーン』という音色のあとに不思議な声が聞こえてくる。


『ローラ・ポポーヴァにツッコミを入れますか?』


 僕は声に出さずに返事をする。


 違う意味でね。


 その後、僕とローラさんはとある宿屋へと向かった。


 そして――。


 僕は自分の身体を使ってローラさんにを入れ続けた。


 やがて夜が明けてスズメの鳴き声が聞こえたとき、僕ことカンサイは心身ともに本物の男になっていた。

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