#3 会社概要 その2
入り口から一番奥まったところが総務部。営業部に顔を向けて座っているのが
上子に聞かれて和子は「そうねえ、悪い人じゃなさそうだけど… ナマコが黒縁の眼鏡かけて、ヌラッと立ったみたいな」と言ったナマコ。
ちなみに肩書は課長。この会社、ヒラの次は課長なのだが、不幸な事にナマコが途中入社してきた時、総務部にはただモノでない大お局様がいた。
女子に肩書は与えないという不文律が存在していた為、ヒラ社員大お局ある限りナマコに昇進の芽はなかった。だもんで、大お局退社と新社長就任の恩赦、いや特需? で最近ようやく昇進が実現したばかりだった。
泥鰌の背後には造り付け金庫の扉。高さ2メートルほどの重い扉を開けると、中は2坪程あって、泥鰌は何でもかんでもここにしまう。
得意先から送られてきた〝くさやの干物〟を箱ごと金庫にしまって異臭騒ぎを起こした事もある。皆の指摘に「この金庫から異臭がする訳がない」と怒り狂って扉を開けた時の顔は、池だと思って飛び込んだら鍋だった泥鰌というかなんというか…
この巨大金庫、閉まれば当然中からは開けない。だから、中に入って作業する時は扉を半開きにしておくのだが… 几帳面なのか確信犯なのか、和子の知る限りで4回、ナマコは泥鰌を封じ込め、金庫内の緊急ベルが社内に鳴り響いた。
泥鰌に向かって右側に、ガラス張りのコンピューター室がある。冬は「カイロがあるやろ」夏は「仕事もないのに」と空調をケチりにケチる社内で 唯一ここだけは年中快適な温度、もちろん人ではなく、まだまだデリケートだったコンピューターの為だが、経理入力等入室の機会の多かった和子には有難い避難場所になった。
そして泥鰌に向かって左側の窓に添って、まるで教室のように同じ方向を向いて 専務、常務、顧問が一列に並んでいるという違和感ある光景が広がる。まあ、互いに顔を見ずに仕事をしたい、とういう気持ちを形にしたらこうなった、という事らしい。
1階は受付、というより管理人室もしくは守衛室というような部屋がすみっこに一つだけ、訪問客などほぼなく、配送トラックの受領印を押すのが主な仕事。なので『内線に電話して下さい』という案内と電話機を置いてある事が多い。
閑散期の夏には営業事務の女子たちが交代でおやつを食べにやってくる。繁忙期の冬には終電に間に合わない程 働かされている子たちなのだから、そこはまあ黙認されている。ちなみに終電を逃した子たちはコース別に営業マンが営業車で送り届ける。タクシー代は出ないし、営業女子にも営業マンにも残業代は出ない。
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