◆第53話◆
俺と阿久津の少年院行きを知ったとき、エマは篠田を諦めた。いつか必ずと割り切ったのだ。
俺達の現地到着をメールで確認すると監禁していた田代を箱詰めにして台車に乗せた。音楽機材の大きな箱も運送用の台車も元々部屋に置いてある。田代の梱包を済ませるとタクシーで本宅に行き旦那の車で戻ってきた。
無人のアナーキーに田代を放置するわけにはいかない。やむを得ずここへ連れ帰ってきたのだと嫌そうに言った。
「人のこと笑えないわ。あたしも早とちりしてたのね。あーあ。それなら田代と篠田を交換してもらえばよかった。あいつが主犯だし」
「死体はどうした」
「本当はアナーキーで処理するつもりだったのよ。あんたが売り付けたクソ高い冷凍庫があるからね。埋めるとか沈めるとかは抵抗があったの」
「捕まるぞ」
「そうね。ところで篠田はどうなってるの?」
「店のキャストがカマかけたんだ。見事に引っ掛かって阿久津に連れていかれた」
「そっか。じゃあこれで良かったのかもね」
ほっとした様子だ。憑き物が落ちたというか、今のエマからは清々しさすら感じる。
「これからどうするんだ」
「何も考えてなかったの。阿久津君が乗り込んできて殺されるんじゃないかと思ってたから」
「あんたを殺す理由はないだろう」
「そうかな? 結構頑張って捜してたからさ。お店もほとんど閉めちゃったじゃない? あれはさすがに焦ったわ」
「最初からイブとの関係を言ってくれりゃ阿久津だって考えたと思うぜ」
「だってあんた達を頼ったら一人で戦ったヒカリに顔向け出来ないじゃない。こう見えて保護者よ」
前より痩せた肩に気付き胸が痛んだ。
「イブは俺に電話したぞ」
いつも気丈な女の顔が歪む。
「あんたも電話してくれりゃよかったんだ」
ほとんど泣き出しそうな顔だった。
エマは「そうね」と言って笑った。
その顔は俺を傷付けたかもしれない。
結局、無力だったのだ。
◆ ◆ ◆
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