◆第48話◆

「お帰り。カッコよかったぜ」

「死ね」



 帰宅するとタクシーで先回りしたらしい阿久津がビールの缶を差し出してきた。当然俺の買い置きだ。


 あの後顔の怖い輩が店に来たと思ったら全員阿久津に一礼し篠田を担ぎ上げて出て行った。行方は聞いていない。


 その場に居合わせた客からはお代なんかとてもじゃないが頂けない。阿久津は謝り倒す俺を横で上座の客達に何か握らせていた。当然何も言わなかった。不都合を揉み消すのに金は言葉より便利だ。


「アゲハが救急車から電話してきたんだよ。行ってみりゃ頑張ってたのは黒服だったけどな。まあ最後にお前の飛び膝蹴りが見られて良かった。そうやって普段から人間らしくしてろ」


 篠田をのして一件落着だったら何度でも蹴り上げてやる。もうあいつはどうでもいい。


「エマが」

「おおかた旦那が田代の世話を押し付けたんだろうよ。女神の登場だ」

「呼び出すか」

「俺等が院に行く事話したんだろ。田代連れてとっくに逃げてる。箱はもう空だった」

「アナーキーを捨てたのか。あいつら一体どういう関係なんだ」

「死んだ旦那の置き土産だから大事なんじゃねえの。じゃなきゃ役立たずチンピラなんか誰が匿うか」

「どうする」

「エマさんをか? 俺は平等主義者だからな。男女関係なくぶん殴るぜ」


 疲れがどっと増す。


「笑えねえよ」


 俺達はエマを憎むには付き合いが長すぎる。

 だが逃げた。阿久津は腐ってもヤクザだ。そんなに田代が大事ならくれてやった方がいいんだろうか。そうしたらイブの無念は、俺の責任はどこへ行くのだろう。


 阿久津はラークに火を付け無防備にフローリングに転がった。日頃の恨みで腹を刺してやりたくなる。殺気がバレたのか舌打ちが飛んできた。だが続く言葉は意外なものだった。


「な。どうすっかな」


 矛盾するようだが気力のない阿久津は見たくない。風呂に入り長めにシャワーを浴びた。居間に戻ると阿久津はいなくなっていた。


 ラークの吸い殻が空き缶でくすぶっている。



 ◆ ◆ ◆

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