◆第46話◆
◆ ◆ ◆
「伊吹江麻子」
営業中に阿久津が事務所の電話を鳴らす事は珍しい。用があれば手すきの時に掛けるようメールで求めるか直接店に来るからだ。
アンクに帰ってきてから一週間も経っていない。前置きもなく告げられたのはエマのフルネームだ。阿久津が伊吹義男を調べると女神の正体はあっさり露呈した。
「田代を匿ってるのはエマさんだ」
目眩がする。
「聞いてんのか」
「ちょっと待ってくれ」
破壊音と悲鳴が響いた。俺が叫んだのかと思い思わず口を手で覆うと事務所のドアが開かれトラが転がり込んできた。
「喧嘩です! 喧嘩っつーか傷害!? アゲハが怪我しました!」
受話器を放り出しフロアへ向かう。黒服相手に暴れてるのは篠田だった。
逃がさない為に定期的に店に来させているがキャストは付けずに最初から俺が対応している。俺が電話中だと知ったアゲハはトラの制止を振り切り勝手に接客に付いた。
アゲハは額から血を流しているものの意識ははっきりしている。おしぼりで強く押さえさせ抱きかかえて更衣室に移動させた。
「ごめんねクロちゃん。篠田の地雷踏んだ」
「何言ったんだよ」
「自分の非を認めるなら早い方が良い。あなたの後ろにイブが見える、って」
「アホかお前それもう全部じゃねえか」
「だってっ代表が、まだ忙しいって、全然デート、してくれないんだもんっ」
子供のようにぐずぐずと泣き出したアゲハをブランケットで包み救急車を呼んだ。呼ぶなら阿久津を呼べだの病院は嫌だのと喚いていたが結局は大人しく搬送されていった。店の金庫から幾らか持たせようとしたら保険証くらい持ってるわと担架から吠えられた。多分頭は大丈夫だ。
さて篠田。どうするべきかと事務所に戻り防犯カメラを見ると黒服総出で押さえ付けている。俺も参戦すべきだろうが足が動かない。
アゲハの言葉に対して冗談よせと流すでもなく人目も気にせず頭を割った。共犯は、主犯は自分だと自白したようなものだ。奴も精神状態がギリギリだったのだろう。
何かが割れる音がする。満月だろうか。今夜は色んな事が捲れる。次から次へと。笑いがこみ上げてきた。どいつもこいつも狂ってやがる。地獄みたいな夜だ。
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