◆第40話◆
そのまま眠ってしまい着信音で目が覚めると窓の外は真っ暗になっていた。電話はトラからだった。
「あっクロさんおつかれっすー。イオリさん無断欠勤なんすけど」
「了解」
「さーせん。ね、そっちどうっすか? 何か分かりました?」
「まだ何も。ああ、阿久津の野郎、ここが初対面じゃなかった。少年院で一緒になってた」
「マジっすか超ウケる」
「ウケねえよ。やたら馴れ馴れしい理由が分かった」
電話の向こう側からざわめきが聞こえてくる。女達の笑い声、グラスのぶつかる音や男達の足音。日常だ。
「こっちは大丈夫っすから。俺慣れてきましたよ。もう店長って名乗っちゃおっかな。クロさん帰ってこなくていいっすよ、あっイテッ! おい!」「――クロちゃんもしもーし。アゲハでーす。田代の女、見付かった?」
香水の匂いを感じた気がした。
「世話になった教官に会ってきた」
「ねえ、代表いる?」
「いない」
「あっそう。じゃあ頑張ってね」
後ろでトラが喚いていたが切られてしまった。要件は済んだだろうから掛け直さなかった。電話帳からイオリの番号を呼びだした。一つ下にはイブのメモリが残っている。俺にはこれを消せる日が来るのだろうか。
午前零時、シャワーを浴びるとジャケットの内ポケットからピースを取り出した。最後の一本。
どうせもう眠れない。これを吸ったらコンビニに行こうと決め火を付けた。
俺は指に白い傷跡がある。阿久津少年と殴り合ったとき、奴の歯が当たって切れた。今になって再会したのは偶然か神に与えられた復讐のチャンスか。くだらない。ガキの戯れだ。だがガキにとっちゃ生きるか死ぬかの戯れがある。大人になって思い出すと酒のつまみにもならないような馬鹿らしい喧嘩だとしても。
暴力は振るうのも振るわれるのもコツがいる。篠田は振るわれる側の人間で加減を知らなかった。あいつは大きな子供だ。遊びの延長でうっかり人を殺したのかもしれない。大人の殴り合いより子供の戯れの方が怖ろしい場合もある。夜の世界で言えば取り返しの付かない事態になる可能性は圧倒的に後者の方が高い。そして理由は大体馬鹿らしい。
凶器のような灰皿に吸い殻が一本。この硝子の器が溢れる前に元教官からの連絡がくる事を祈った。
シャツを羽織ると煙草とコーヒーを求めて夜の町へ繰り出した。
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