◆第33話◆

「クロちゃん。代表連絡取ってる?」


 昨日の欠勤を黒服に謝罪しているとアゲハに見付かった。事務所にはキャストの用事はないのに不機嫌な顔でズカズカと入ってくる。黒服は逃げるように出て行った。


「今忙しいんだよ。落ち着いたら連絡するように伝えてるから」

「ずうっとほったらかされてるの。あたしもう限界。まだイブの指名客まだ追いかけてるの?」


 セレブ系のアゲハは怒ると迫力がある。


「とっくに犯人捕まっただろ。死んだ人間の事だ。蒸し返してやるな」

「そんなのがあたしに通用すると思ってるの? もう嫌になっちゃう。お店辞めようかな」


 この手の駆け引きは何度やられても苛々する。明日から来るなと言えたらどれだけ楽か。


「ナンバー入りがそんな事言うなよ。下の子が泣くぞ」

「どうでも良いわよ。代表の為に頑張ってるんだもの。本人が感謝してくれないんじゃ、こっちだってやってられないわ」 

「声がでけえよ。イブが死んで一年も経ってないんだぞ。察してやれよ」

「都合が悪い時だけ引き合いに出すのね。あたしには蒸し返すなって言ったくせに」


 頭痛がする。キャバ嬢に口で勝てる男がいるなら見てみたい。


「要はイブの指名客が見つかればいいんでしょ。代表もヤクザのくせにひと一人捜せないなんて情けないわね。良いわ。あたしが見付けてあげる。知ってる事教えて」

「落ち着け。連絡させるから」

「クロちゃんも当てに出来ない。いつもそう言ってはぐらかすんだから。あのヤクの坊やでしょ。最後に現れたのはいつ? そしてどこ?」

「とにかく一回落ち着けよ」

「今夜代表から電話がなかったら、店辞めるから」


 カツカツとヒールを鳴らして出て行った。苦笑いのトラが顔を出す。


「さーせん。金庫開けていいっすか」

「あいつあんなに性格キツかったか」


 気まずそうに笑いながら入ってくる。


「アゲハはむらっけありますからね。落ちてるよりかは気立ってる方がマシじゃないですか」

「ならお前が相手しろよ」

「勘弁して下さい」


 トラは両替を済ませるとそそくさと出て行った。


 むらっけか。確かにと思わなくもない。物言わなくなるくらいならうるさい方がまだマシだ。


 どの道キャストのご機嫌は取っておかなければならない。こっちだって俺の顔見る度に代表代表と騒がれていい加減気が狂いそうだ。事務所の電話を取り上げ阿久津に電話を掛けた。出て欲しいような出て欲しくないような気持ちでコール音を数えた。


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