◆第32話◆
◆ ◆ ◆
煙草とゴミと脂の匂い。男の部屋の匂いだ。
窓を開けたくて堪らなかったがまずは部屋の様子をじっくり観察した。部屋中引っくり返されてるのは篠田が家探ししたんだろう。テレビの画面が割れてるのはどう見ても八つ当たりだ。
靴のまま部屋に上がりユニットバスのドアを開けた。水回りは意外と綺麗にしている。ワンルームなので他に開ける所は押し入れしかなく、とにかく無人である事はすぐに分かった。テーブルの上には薄く埃が積もりそれは灰皿とライターにも及んでいる。しばらく人の出入りはなかったようだ。
窓を開け服の山から取り掛かった。ポケットからは小銭かレシートしか出てこない。服を裏返しデニムパンツのロールアップを見た。何も出ない。確認済みは部屋の端に蹴り寄せた。
次に押し入れに手を付けた。スニーカーに詰められた型崩れを防ぐ紙の中から乾燥大麻が出てきた。後は同じゲーム機が新品のまま積み重なっていて容易に想像出来る家主の幼さに舌打ちが出た。
ラグの上にはサングラスやシルバーアクセサリーが散らばっている。スチール製のラックが倒されているから元々はきちんと片付けられてたのかもしれない。一生懸命悪ぶってる。そんな印象が部屋に充満していた。
漫画とAVの詰まった衣装ケースを漁っていると阿久津から電話が掛かってきた。
「さぼり。どこで何してんだよ」
「田代んち」
「何か見付かったか」
「いや」
「マリアが言ってた田代の女だけどな、世話になってる人がいるってのは方々で漏らしてたが肝心のどこのどいつだってのは誰も知らねえ。義理がある奴には迷惑掛けないようにしてたんだろうな」
その思考が出来てなぜ殺しに関わった。脅されてたのか。阿久津が続ける。
「どうにも繋がらねえ。篠田は薬物と殺しを切り離してるが、顧客の女達は田代はまずい事から逃げてると言ってる。女を頼ってるともな。まずい事ってのが薬物関係なら篠田が知らないはずがねえ。絶対に殺しに関わってる。薬の客だったイブを連れ出して主犯に差し出した、田代の罪がそれだけなら必ず共犯がいる。そいつが主犯だ」
聞きたい事があったのに一方的に電話を切られ、思わず携帯を投げ付けるとパキリと音がした。液晶画面が死んだと思ったら携帯は無事で、床に転がっていたらしいグラスが割れていた。十オンスのゲストグラスだった。珍しくもなんともない。
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