◇第31話◇
強くて目を閉じても溢れる涙を止めることは出来なかった。頬に暖かいものが触れる。エマちゃんの手だ。
「オレ……どうやって償えば良いのか……」
「じゃあひとつ教えて。篠田の家はどこ」
「知らないよ。知ってどうするつもりなんだよ」
目を開けた。エマちゃんに表情は無かった。
「あんたの次に殺すのよ」
遂にオレの涙腺はバグってしまった。
「問題は阿久津君なの。あの男しつこい。組員をうろつかせてるからあんたを移動させるのはリスキーだし、篠田にも近付けない」
「その人が諦めたらオレを殺すの?」
「うん。バラしてアナーキーの業務用冷凍庫に入れとくつもり。押し売りされて使ってないのがあるから。後は店の生ゴミに混ぜて少しずつ捨てる」
洗面台を抱え込んで胃の中の物を戻した。背中をさすってくれたけど、それは吐き気を余計ひどくさせた。
「ふざけんな。そんな事して捕まらないわけないだろ」
「あんたにそれを言う権利はないでしょ」
言葉に詰まり、また戻した。口の周りを洗われ涙すら袖で拭いてくれた。
「阿久津君が諦めたらすぐに楽にしてあげるから。また二日後食事を届けるからそれまでに篠田のおうち思い出しておいてね。ちゃお」
玄関の鍵が掛かるとバスタブの中にどっと座り込み膝を抱えた。寒くて寒くて仕方なかった。自分を抱き締めるとイブの死体を思い出した。ちょうどこんな恰好だったから。
「ごめん」
口が勝手にそう言った。何に対して、誰に向けてかは分からない。
どうすればこのルートを回避出来たのかそればかり考えて過ごした。
答えはあり過ぎた。
オレは用意された唯一のバッドエンドコースを選んでしまったらしかった。
そして人生はリセット不可能だ。
◇ ◇ ◇
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