◇第27話◇

 イブを連れ出すのは簡単だった。


「一緒にぶっ飛んでみない?」


 魔法の呪文。やる奴の目は輝く。話は早かった。

 持ちかけた日に連れ出す気はなくヤクを手渡すだけに留めた。アフターで店から連れ出せばすぐにバレると思ったからだ。ヤクを渡したとき通りかかった厚化粧の妖怪みたいなババアに睨まれたけど気にしなかった。もうなりふり構っていられない。とにかく早く辞めたかった。


 約束の夜、車で迎えに行くとイブは助手席に乗り込むやいなやオレの首に腕を回り何度もキスをせがんだ。早く車を出したい気を押さえて付き合ってやった。もうガチガチだったよ。色んなところが。


 篠田に指定されたアパートには自宅だと偽って連れ込んだ。震える指でインターホンを押すとイブが隣で身を固くしたのが分かった。


「誰かいるの?」イブが目が細めたのと篠田がドアの隙間から腕を伸ばしたのは同時だったと思う。悲鳴を上げる間もなく部屋に引きずり込まれ、オレも慌てて中に入った。


 篠田は暴れるイブを殴り付けると「こいつ押さえとけ」と怒鳴った。うつ伏せのイブに馬乗りになって、半泣きで篠田の方を見るとあいつはキッチンで注射器を組み立ててた。悪夢だよ。まじで最悪だと思った。実家に帰りたかった。


 股の間でイブの動くのを感じた。何かと思えば倒れた先に転がっていた篠田の携帯に腕を伸ばしている。少し身体を浮かしてやるとイブは携帯を掴み、警察に通報するかと思ったら暗記していた番号に電話をかけた。


 ――クロちゃん、助けて


 クロちゃん? 疑問はこめかみごと吹っ飛ばされた。鉄パイプを持った篠田が真後ろに立っていた。


「使えねえなこのタコ」薄れる意識の中で吐き捨てられた言葉がこの日の最後の記憶だ。



 ◇ ◇ ◇

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