◆第24話◆
相変わらず鬱陶しいカーテンだ。ビーズの耳障りな音を聞きながらエマがコーヒーを淹れてくれるのを待つ。
「お待たせ」
濃く熱い液体。
「それで、イブちゃんの犯人どう?」
逮捕された小林が身代わりだという事は身近にヤクザがいればすぐ気付く。擦り倒されたシナリオ。指は飛んだが篠田のシマ荒らしは奴の組長がケツを拭いたのだ。"犯人"逮捕。これで丸く収まったと警察の安堵の溜息まで聞こえる。
「見付からない。クラブBのマリア以降は足取りも掴めない」
「阿久津君は?」
「薬の顧客の女に自分とこの組員貼り付けて一人一人見張らせてる。アンク以外畳んじまったからあいつ自身は不動産転がしてる」
「イブちゃんて」
伏したまつげがエマの目元に影をつくる。
「愛されてたのかな」
「どういう意味だ」
「いまだに組の人間使って捜させてるなんて、そうなのかなって」
「所有物が弄ばれたのが気に入らないんだろ。店も手放すはめになった」
「クロは犯人を見付けたいと思う?」
「上司のご所望だからな」
「あなた自身の事を聞いてるのよ」
自問している事だった。俺は自分の事で分からない事が多すぎる。
「イブはうちのキャストだ」
「優しいのね」
「仕事してるだけだ。キャストを守れるのは黒服しかいない」
「自衛も出来たと思わない?」
「それでも男には敵わない」
田代を見付けたとしてもそれはただの過程だ。イブの無念はその先にある。
――クロちゃん、助けて。
その言葉の行方が知りたかった。
「光が…… 西日が眩しいわ。カーテン閉めて。紫外線はコーヒー豆の劣化を促すの。お肌もね」
この女のお姫様気取りは今に始まった事じゃない。言う事を聞いてやり、電気を付けるとエマの憂鬱そうな目元の影は消えた。
「ありがとう。えっと、それでイブちゃんは店ではどんな子だったの?」
「元気だった」
「ざっくりだなあ。頑張ってた?」
「これからってとこだったな」
「じゃあ余計残念ね」
ああ。本当に残念だ。
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