◇第22話◇
何よりも退屈が辛い。マリアに会いに行ったっきり外に出ていない。食事はエマちゃんの作り置きかデリバリーだ。
外の様子が気になるけどテレビも携帯もないから情報網はエマちゃんが持ってくる週刊誌だけ。日に日に記事が小さくなり今では見当たらない。このまま逃げ切れるような気になってしまう。
愛してるわけじゃないけどエマちゃんに心配をかけたくない。オレが隠れて篠田と会ってた事も、もうずっと前から気づいてたんじゃないかと思う。もっと早く足を洗えば良かった。
あの夜、電話で篠田はとんでもないことを言いだした。辞めたいなら最後に女を一人用意しろと。パクられる前に働いてた会員制のバーを思い出した。
怒鳴り声と笑い声、喘ぎ声と泣き声。用意した女をどうするつもりかは聞かなかった。怖くて聞けなかった。
そしてオレは生贄を差し出した。篠田に指示されるがまま暴れるイブを押さえ付けたところまでは覚えている。肝心の部分はすっぽり記憶が抜け落ち何が起こったのかは分からない。
次に思い出せるのは空の白さだ。早朝、死体とドライブした。自分がどこに向かって運転してるのか分からなかったよ。篠田からの着信にハッして、車を止めた。
あいつは一言、バレねえようにやれよって、そう言って電話を切った。死体遺棄をバレないようにやれだって? それでオレの精神は限界だった。
――逃げよ。
身元が分かる物が残ってるとマズいと思った。バックシートに乗せたイブの身体を探ると上着から財布が出てきた。中から本人特定出来そうなカードを抜き、ライターで火を付け燃えカスを外にばら撒いた。バッグと携帯はなかったから篠田の部屋だろう。もう知らない。とてもじゃないけどこれ以上抱えきれない。
トランクからブルーシートを取り出してイブを包んだ。なるべく小さく、目立たないように。
一段落するとほんの少し落ち着きを取り戻して、廃車が山ほど捨ててある工場を思い出した。遠くないし、この車は薬物の取引場所に使えと篠田から与えられた物で名義はオレじゃない。工場までぶっ飛ばすと死体ごと乗り捨てた。
その足でアナーキーに向かったんだ。その頃にはもう、空が青くなっていた。
回想しているとインターホンの音が響いて飛び上がった。こればっかりはどうしても慣れない。スコープを覗くと笑顔のエマちゃんがいた。
安心して鍵を開けるとオレから目を離さず電動シェーバーみたいな物をぬっと付き出してきた。
これなんだろうと思った瞬間首筋に当てられ意識を失った。最後の感覚に痛みはなく、ただ身体の末端が死ぬほど熱かった。
◇ ◇ ◇
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