◇第20話◇

 ◇ ◇ ◇


 最悪だ。もう、オレの人生終わった。


 頭では諦めている。それでも足を止められない。怖いから走る。走る走る走る――




 そもそも篠田の野郎は最初から気に入らなかった。地元の先輩に紹介されたとき、一目見てそっち側の人間だって分かった。


 あれよあれよと流されて得体の知れない会員制のバーのフロント係を押し付けられたときがオレの人生の終わりの始まりだ。

 子供も住んでるような住宅街のマンションの一室だったし、客は血液検査の紙を黙って差し出すだけで金のやり取りは一切なかった。部屋の中で何が行われていたのかは知らない。知りたくもない。


 お礼参りみたいな形相で警察が踏み込んできたとき、オレは一切動揺しなかった。いや、そりゃあ迫力には驚いたさ。でも明らかにヤバイ仕事だったし、ぶっちゃけほっとした。


 やる気の無い弁護士に当たっちまったせいで何年かブチ込まれたけど、まあそれはそれでいいかと思った。篠田だって暇じゃない。オレが出てくる頃にはすっかり忘れてるだろうってな。でも、甘かった。


 退所日、見送りの教官に渡された荷物と書類を持って駅に向かってたら、フルスモークのクラウンが突っ込んできた。ああ、オレはここで死ぬんだって思ったよ。運転手、目ぇバキバキだったし。目の前で急ブレーキ踏まれて迎えにきた母親は腰抜かして倒れちまった。腕を引き上げて先に帰した。そっから会ってない。


 バックシートには篠田が乗っていた。オレは何も言わずにドアを開け隣に乗り込んだ。理由は分からない。そうするしかないって思ったんだ。


 走り出した車がオレの母親を追い抜いたとき、陽の当たる世界との決別を感じたよ。


 人生最悪の気分だったね。


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