◆第19話◆
「田代は組で追っかけてる」
わざわざそれを伝えにきたのだろうか。クラブBの件でさっき電話したにも関わらず、営業後現れた阿久津はそう言って客の使用済み灰皿を引き寄せた。
「マリアは怪しい。あいつは何か隠してる」
「道徳だ。俺は逃げたガキに責任の意味を教えてやらなきゃならねえ」
「イブの殺され方覚えてるか。小競り合いじゃない。恨まれてたんじゃないのか」
「経験の浅いキャストはアゲハに面倒見させてた。トラブルは聞いてない」
「待て。発端はそのアゲハのタレコミだぞ。そもそもお前、イブと話した事あるのか」
「いや」
「お前が面接すっ飛ばして適当に寄せ集めるからこういう事になったんじゃねえのか」
「そうかもな」
素直さが気色悪い。
「早くしないと警察に先越されるぞ」
阿久津は何も言わず立ち上がるとそのまま出て行った。
テーブルを拭き上げBGMを切ると、細く立ち上る煙に気が付いた。灰皿で燻ってるラークはフィルターが強く噛みしめられていた。
◆ ◆ ◆
エマから電話があったのはその翌日の事。イブの死から一カ月以上経った。狭い世界。ゴシップは漏れてしまえば回るのは一瞬だ。
「気の毒な事件だと思ったらまさかあんたの店の子だったとはね。阿久津君の店がバタバタ閉まりだしたから何かあったのかなとは思ってた。犯人捕まらないの?」
エマは都内の人間だ。当然だが既に夜職界隈で噂になっていた事を知り胸を騒がせた。田代にとって良い刺激ではないはずだ。
「ねえ、阿久津君怒ってる?」
「あいつが?」
「顔に似合わず優しいじゃない。閉めた店で踊れる子、何人か押し付けられたもの。経営仲間に紹介したわ。うちの箱は小さいから」
「さあな。あいつの考えてる事はよく分からない」
「何か分かったら教えてくれる? クロを紹介したのあたしだもの。責任感じるわ。こっちも色々調べてみるから」
イブは未成年だ。今のところ"飲食店勤務の女性不審死"とだけ報道されている。週刊誌はすっぱ抜いたがテレビでは乱暴の痕跡も伏せられている。警察は田代を追い詰めているだろうか。
誰かに何かを隠されているような気になって苛立つ。吸いかけのピースを強く灰皿に押し付けた。
◆ ◆ ◆
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