第18話

「あんたも田代の話?」


 マリアはふてぶてしい女だが店の雰囲気には合っている。照明は暗すぎるしBGMはでか過ぎる。


「一昨日どんな様子だった」

「さっき来た人にも話したんですけど。少しやつれてたよ。マズいことになって逃げてるって言ってた」

「一緒に逃げようと誘われたのか」

「そんなわけないじゃん」

「居場所は」

「知らない。興味ない。ねえ、シャンパン入れてくれない? 一番安いので良いから」

「好きにしろ」


 田代はまだこの辺にいた。意外と大胆な男だ。もしくはヤケクソか。


「田代の本命を知ってるか。面倒見たい女がいるらしい」

「さあね。とっかけひっかえでしょ」


 さっきから一切目が合わない。何か隠してると直感があった。


「田代はキメが細かいのが好みらしいな」

「ヤクの話なんか聞いた事ないわよ」

「女の肌の話だ。なぜ薬物だと思った」


 さっと顔を上げたマリアの眼球には色の付いたコンタクトが張り付いている。本心を覆い隠すかのように。


「ばっかじゃないの。面倒くさい男。もういいでしょ。お願いしまーす! チェック!」



 店を追い出されアンクに戻る道すがら阿久津に電話した。クラブBには顔がきかないと言う。古い店で問題を起こす度に店名だけ変えて何度も蘇っているらしい。客含め身内だけでやっているような閉鎖的で小さなキャバクラだ。

 お前出禁食らったな、楽しそうにそう言われたが上等だ。風営法を守らない店なんかこっちから願い下げだ。


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