第16話

 シャワーの音で目が覚めた。女は連れ込んでないし俺は幽霊は信じない。上裸の男が風呂場から出てきた。


「よお。起こしたか」

「ふざけんなお前ぶっ殺すぞ」

「いいね」


 阿久津は冷蔵庫からビールを取り出す。一本投げて寄越されたが元々俺のだ。


「アンク以外閉める」


 思わず顔を見てしまった。


「田代がうちに流した薬が最終的にどこに行ったか分からない。余所様じゃキャスト間の横流しは常識だと」


 閉店は極端だ。


「やり過ぎだと思うか。一度流れちまったもんは仕方ねえ。店内で回ってる可能性の方が問題だ。浮いたキャストはバラして他店に当てがう」

「アンクはどうなる」

「このタイミングで閉めたら警察に怪しまれる。叩かれて埃が出る可能性があるだろ。それじゃなくても四課が手ぐすね引いてんだ。お前、イブが他のキャストに薬流したと思うか」

「分からない」

「黒服も入れて二十一人残ってる。アンクには基本フル出勤出来る奴しか集めてない。しばらく私物漁れ。モノが出たら連絡しろ」


 身仕度を調えながらつらつらと喋る。


「俺は忙しくなる。再来週月曜に店に行くからそれまでに白黒はっきりさせておけ」


 返事を待たず阿久津は出て行った。置き去りにされたラークがあれは幻ではないと教える。手の中のビールは温くなった。プルタブを起こすとぷしっと音を立て指を濡らす。半分程飲むと缶を逆さにしてシンクに入れてしまった。


 シャワーを浴びようかと思ったが湿気の残る浴室に入る気を削がれもう一度横になる。

 目をつぶり片っ端から他人の荷物を漁る自分を想像したが違和感を感じられず思考を中断した。


 俺のスタッフを信用しろと言い切れない自分に情けなさを感じた。余計な仕事が増えてしまったからだ。こんな事になるなら、皆ともっと仲良くしとくんだったぜ。


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