第15話

 アンクの系列店に田代の顧客は十人いた。八人はただの馬鹿だったが二人は話が通じた。


 一人目はセクキャバの中堅。三カ月前新規で現れた田代にフリーで付き枕営業で引っ張ってるうちに薬を勧められたと言う。


「もちろん断ったよ。あたし子供がいるもん。あんまりしつこかったから義理で一回買ってあげただけ。持ってるのも嫌で駅のトイレに流しちゃった。もう一カ月以上来てないんじゃないかな。あたし営業メールしないから、元々あんまり連絡取ってなかったけど」



 二人目はDJバーで働く古株のダンサー。VIP席を占領する田代に気に入られその日の内に一晩共にしたと言う。


「こいつなんかやってんなってのはすぐに分かった。歯の裏真っ黒だったしね。でも、お互い様だったみたい。ぶっ飛びたくないって聞かれたから、一緒に帰ろうって答えただけ。後はラブホでセックスして朝マック食べて別れた。その後二、三回来たけど金取るようになったから着拒した。それから来てない」



 二人の話で共通してるのは田代が初めて現れたのが三カ月という事と控えさせてもらった田代の電話番号とメールアドレスだ。あの夜俺に掛かってきた番号とは異なる。阿久津に電話した。


「十店舗回った」

「早えな。ちゃんと話聞いたのかよ」

「多分このエリアで捌き出したのは三カ月からだ」

「ここへ来てたった二カ月で飛んだのか。何かトラブったのか」

「聞いた感じじゃただの使いっ走りだ。組のもの持ち逃げするとは思えない」


 阿久津は舌打ちすると掛け直すと言って電話を切った。向こう側から聞こえたざわめきは夜の店のそれだった。お楽しみ中らしい。


 暗記した篠田の番号を入力する。ワン切りするとすぐに折り返しがあった。


「黒田だ。田代に商売始めさせたのはいつからだ」

「一年前。他の組員の目の届かない所を適当に回らせた」

「何があった。急に飛んだのか」

「売上げ金の受け渡しの前日に仕事から抜けさせてくれって電話があった。面倒見たい女ができたとか言ってた。寝言かと思ってある分売り捌いてから出直せと言ってやった。そっから消息不明かつ音信不通だ」


 面倒見たい女。イブの事だろうか。


「何か分かったら電話しろ。今のうちに阿久津に恩を売っておくんだな」


 電話を切ると時刻は午前三時。

 溜息は喧噪に吸い込また。


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