第14話

「当たり前のように部屋で俺を待つのを止めろ」

「待ってねえしここはエマさんの部屋だろうが」


 阿久津は最近俺が借りてる部屋にやってくる。住宅地だが店から近く動きやすい側面は否定しないが厳つい男が部屋にいるかもと思うと帰宅する足が重くなる。当然のように合鍵を持っているのも理解不能だ。


「篠田の野郎。余所のシマで好き勝手やりやがって」


 受け取ったばかりの顧客名簿をゴミのように放り出すとラークに火を付けた。


「顧客のキャストとは個人面談だ。履歴書を用意しておく。黒田、手伝え」

「アンクはどうする」

「山下に任せろ。手当を付けてやる」


 トラか。有能な黒服だ。あいつならぶつぶつ言いながらもそつなくこなしてくれるだろう。


「イブの事は伏せて全員順番で面談すると強調しろ。田代と連絡取れるキャストを見付け出せ」


 阿久津は他店の顧客に聞き込みに行くと言って出て行った。新規の指名でこんな柄悪いのが出てくるなんて同情を禁じ得ない。


 トラはもう帰宅しただろうか。電話を掛けると案外普通の声ですぐに出た。


「おつかれっすー」

「お疲れ。トラ、今夜から店回せ」

「げえ。電話出なきゃよかった」

「代表のご指名だ。手当が付く。そんなに長い期間じゃない。トラブルはすぐ電話してくれて構わない」

「へえへえ、どうせそっちで決めちゃったんでしょ。分かりましたよ。追い出されたら行くとこ無いっすから。それより」


 続く言葉は予想出来る。


「イブの指名客、見付けて下さいね。イブは馬鹿だけど悪い子じゃなかったっすよ。頼んます。それじゃ」



 この時間俺に出来る事は何もない。面談の言葉を考えていると睡魔に襲われた。シャワーを浴びる気力もなく、ジャケットを脱ぎベルトを引き抜くとそのまま机に突っ伏した。



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