第13話
翌週、何も知らずに来店した篠田は自分の酒を手にして現れた阿久津に目を丸くした。
「こんばんは」
「何だテメエ誰だ」
「ここの代表です。うちのが粗相してるとか」
「イブって女どこ行った」
阿久津は建前で座らせていたキャストを退席させると身を乗り出して囁いた。
「死んだよ」
篠田が目を見開く。
「うちの大事なキャストが殺されたんだよ。 教えてくれないか。イブの男は一体何しやがったんだ」
「飛んだキャストの事だろ。関係ねえ」
「じゃあお前は何でここに来るんだよ」
声が尖った。
「飛んで一年なら話は別だ。イブが飛んだのはたった一カ月と二週間前。死ぬ前に電話もよこしてる。タイミング的にきっかけはどう考えてもお前の探してる男だ。店の財産が良いように使われ、殺された。俺は私物を盗まれても何とも思わないが店の人間だけは別だ。俺の言ってる意味が分かるか」
篠田は諦めたように溜息をつきグラスの酒を煽った。手酌で注ぎ足し、もう一杯。
「探してる男は田代という。組員じゃない。俺が拾った少年院上がりのチンピラだ。売人をやらせていたが売上げと在庫のヤクを持って消えた。
売上げはどうでもいい。問題はヤクだ。俺の組は薬物売買だけは御法度だ。親父の主義でな。田代が捕まりヤクの出所がバレたら飛ぶのは俺の指だけじゃない」
背もたれに寄りかかると薄く笑って続けた。
「女殺しは田代がやったとは思えない。声と態度ばかりデカくて肝っ玉の小さい男だ。あいつには殺しは絶対無理だ」
「そいつを辿る線はイブ以外にないのか」
「腐る程ある。田代にはこの辺で商売させてた。本来俺のシマじゃねえからな。経験の浅そうな女を狙って相手させた。それで顧客になった女の電話番号を控えさせて俺が管理してたんだ。それでシノギの間を縫って探偵ごっこよ」
「顧客情報を持ってこい」
「お前どこの組のもんだ」
「阿久津だ」
篠田の舌打ちが切なげに響く。おしぼりで顔を拭くと丸めてテーブルに放った。
「最悪だ。慣れねえ事するもんじゃねえな。田代を見付けた後、俺をどうするつもりだ」
「そりゃお前次第だ」
阿久津は立ち上がると飲み干したグラスを水滴だらけの篠田のグラスに音を立てて当てた。顧客情報は名簿にして持ってこいと言いそのまま店から出て行った。
営業後に再度現れた篠田はフロントに名簿を投げるように置くと悪態を付いた。阿久津に虐められた八つ当たりだ。
店をじろじろ見回すと新規客向けのキャストのプロフィールファイルを捲りだした。イブのページで手がとまる。目を見開いて凝視していた。気味の悪い奴。せき立てるようにわざと音を立ててフロアを掃除した。
イブが未成年だと知らなかったらしい。
篠田の顔は真っ青だった。
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