第12話


「宮田ヒカリさん。十九歳。源氏名はイブで約一カ月前から無断欠勤。そうですね?」


 阿久津との電話から二日後、警察が来た。一課だった。イブが見付かったのは昨日未明。徘徊中のホームレスによって廃業したスクラップ工場から発見された。手足を折り畳み自身を抱き締めるような形でブルーシートに包まれ車の中に捨てられていた。死後およそ三週間。助けを呼ぶ電話があった頃だ。


 注射痕、根性焼き、残された男性の体液から事件性有りと判断。所持していた財布からは身元が分かる物と現金は抜かれており、服屋と漫画喫茶のポイントカードが残されていた。うちの名刺がそれらに挟まれていたそうだ。


 ベテラン風の刑事は阿久津が対応した。俺は下っ端の指示でキャストの更衣室を案内したりイブの勤務態度や交友関係について聞かれたりしていた。うちの事務所が本当に取調室になってしまった。


 警察は聞き取りを終えると名刺を置いて帰っていった。突然現れたが一時間もいなかった。目張りした窓の隙間から僅かに西日が差し込み空気中に漂う埃を光らせる。


「黒田、薬物と篠田の事は」

「いや。聞かれた事しか話してない」

「犯人は素人だ」

「ああ」


 きっと阿久津の言う通りだ。飛んだキャバ嬢が野垂れ死んだ。最後に助けを求めたのがたまたま店で、俺はただの雇われ店長だ。自分に言い聞かせる。

 イブのわめき声が蘇った。あのとき無理矢理にでも聞き出してやれば結果は違っただろうか。


 頭が痛い。気分は最悪だが今夜も通常営業だ。テーブルに灰皿をセットしペットボトルの水を用意しなければならない。目眩をこらえてキッチンに入った。背中に阿久津の視線を感じる。


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