第8話
出勤したイブを事務所に呼び出した。聞くやいなや取り乱し「ヤクなんてやってない」とわめき散らされ疑惑が確信に変わる。
ブチ切れた野良猫状態でまるで手が付けられず、キャッチに出ている山下虎二をインカムで呼び出した。トラは若い黒服だ。キャストと距離感が近い。事情を説明し、イブを落ち着かせて指名客を引っ張り出せと事務所に押し込んだ。
キッチンではキャストが罵り合いお互いの髪を引っ張り合っているし、フロアでは爆笑が同時多発している。客席を足早にすり抜ける黒服の動きには目眩を誘発された。
満月なのか。安定が崩れるのは一瞬だ。きっかけは結構些細な事だったりする。覚悟を決めて諦めるとフロアへ踏み出した。
◆ ◆ ◆
「薬の出所は」
「詰めたら飛んじまった」
阿久津は半月に一度売上げを回収しにくる。
店に来なくなったイブの話をするだけだが、男二人で向かい合うにはこの事務所は狭すぎる。デスクの配置は取調室を思い出す。
「そういう奴は今後吐くまで帰すな。黒服でもな。こんな所で商売しやがるのは十中八九ただのチンピラだ」
返事の代わりに三カ月分の個人売上げのランキング表と仕事中複数回酔い潰れてしまったキャストの履歴書を渡してやる。
「まあまあだな」
「飲めないキャストをどうするつもりだ」
「内蔵売る」
センスが全く分からない。
「なわけねえだろ。突っ込めよ。つまんねえ野郎だな。いつからそんなに固くなった」
「今日までに辞めたのはイブだけだ。大きなトラブルはないし誰からも退職の相談は受けてない」
「へえ。お前結構優しいんだな。心配すんな。テキザイテキショって奴だ」
ラークを灰皿に押し付け出て行った。
事務所には紫煙が残っている。顔にかかるそれが鬱陶しくて息を吹いたが、目の前で渦を巻くだけで視界は晴れなかった。
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