第7話


 三カ月経った。同じ服を着て同じ靴を履く。仕事をして帰る。その繰り返しだ。


 営業後の誰もいない店は嫌いじゃない。この世にたった一人残されたかのような気分になるからだ。狂乱の名残を消し去っていると、とっくに帰ったはずのアゲハが戻ってきた。


「クロちゃん」


 稼ぎ頭で阿久津が引き抜いた生粋のキャバ嬢。


「今いいかしら」

「座れ」


 灰皿を滑らせてやる。


「イブ、あの子多分やってるわよ」


 右手の親指と小指を立てると左右に軽く揺らして見せた。電話中の意味ではない。よく効くお薬の事だ。


「今日ラストまでいたイブの指名客、顔分かる? 私見たの。あいつが流してるわよ」


 イブはまだ若いキャバ嬢だ。スタートダッシュでは数字を伸ばしたが既に勢いは落ちつつある。こういうタイプのキャストは少なくない。

 客は金髪が強烈すぎて顔の細部が思い出せないが見てくれに反して大人しく飲んでいたと記憶している。イブの貴重な指名客だ。


「分かった」


 とち狂って店で楽しもうもんなら俺より先に阿久津が飛んでくるだろうが外でやる分には管轄外。ただ店内での受け渡しは問題だ。


「代表に言う?」

「必要ならな」

「そう」


 イブのシフトを調べる為に立ち上がる。事務所に向かおうと一歩踏み出すと長いネイルが腕に巻き付いた。


「ねえ、代表に伝えておいて。いつでも構わないから電話してって。じゃあ、帰るわね」



 アゲハの残り香が現実だと知らせてくる。これが悪夢ならどれほど救われるか。


 事務所に入るとピースに火を付け目頭を揉んだ。この世界は金とか愛とか薬物とかそんなもんばっかりだ。正直言ってだるすぎる。


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