第4話

「新店?」


 咥え煙草から灰が落ちそうになる。


「そう。多摩の新しいキャバクラ。ぱぱっと酒が作れてトレンチ使える人が欲しいの」

「あんたの店?」

「ううん。手広くやってる知り合いがいるのよ。DJバーを持ってるから時々ダンサーを紹介してるんだけど、今は黒服を集めてるらしくて」

「行かない」


 顔に煙を吹き掛けられる。


「実はもうオッケーしちゃったの。人が集まるまででいいから」

「なら最初からそう言えよ」


 背中に熱く柔らかい肉を感じる。のしかかるエマを横に引き倒すと唇を吸った。舌先に残る苦味が俺の気を重くする。


 どこで何をさせられようがどうだっていい。

 イエガーボムのグラスの位置を覚えたばかりなのにと思っただけだ。



 ◆ ◆ ◆



 照明の落ちたキャバクラは廃墟に見える。約束の時間に現れた店の代表は阿久津と名乗った。俺を見て気味の悪い笑顔を浮かべている。


「黒服の経験は」

「あります」

「気持ち悪い口のきき方すんな」


 なんだこいつ。


「黒田学。お前エマさんとこの男だろ。新宿に住んでんのか。うちで働くなら越してこい」

「人が集まるまでって聞いて来たけど」

「足りなきゃお前が集めるんだよ」


 話が噛み合わない。サイズの合わない靴で歩かされているような不快感を感じる。


「明日から。質問は」


 あるがこれ以上こいつの顔を見たくないが勝った。


 立ち上がろうと腰を浮かせた瞬間、ライターが飛んできた。肩に当たり床に落ちる。真意を測りかねる。


 しばらく睨み合うと男はとたんにつまらなさそうな顔になった。


「行け」



 ビルのエレベーターは扉が閉まるスピードが異様に速い。店は最上階にあり他のテナントは全て飲食関係らしいがこういう所の案内板はあまり当てに出来ない。


 外に出て考える。さっきのは喧嘩を売られてたのだろうか。何か試されていたのだろうか。


 振り向いた。この怪しいビルを見上げたって分からない。これからあの男の元で働くのかと思うと溜息が出た。エマに対して特別な感情はないが、同じ夜職なら上司は話の出来る奴の方が良い。


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