第2章 アランの過去(1)



 アランはしばらくスノウの家で過ごすこととなった。アランは遠慮がちに小さな部屋を選び、家の角部屋で暮らすこととなった。そこから2つ部屋が空いて、スノウとブランの部屋が隣同士に並んでいる。ある晴れた朝の日。

「すっかりこの暮らしに慣れてしまいました。とても素敵なお家で居心地がいいです。」

「もう敬語やめにしない?」とブラン。

「いえ。なんだかこちらのほうがしっくりくるので。」とアラン。

「この絵画はなんですか。毎日眺めてるけどよくわからないです」と大広間に飾っている絵を指さした。

「これはね。オーケストラっていうの。いろんな楽器があって。それぞれ楽器を鳴らして曲を演奏するの。」とスノウは説明する。

「音がないから僕にはさっぱりわからなかったわけだ」とアランは納得した。

「ところでこの小さな楽器はなんですか。僕見覚えがある。」とピッコロを指さす。

「これはピッコロっていうの。笛みたいなものよ」とスノウ。

「スノウさんはなんで楽器に詳しいんですか。音楽お好きですか。」

「うん。楽器はできないけど、演奏会に行ったりして、たくさん聞いてきたの。」とスノウは恥ずかしそうに答える。

「へえ、なんだかすごいなあ。僕ピッコロに触ってみたいな。なにか思い出せるかもしれない。」

「私も実は聞いてるだけじゃ、満足できなくて何か演奏してみたいと思うことがあるの」とスノウは言えなかったことをやっと言ってみた。

「これを機会にやってみるのもありじゃない?」とブラン。

「そうね。アラン君がやってきてから、なんだかやってみたいと思うことが増えた気がするの」とスノウ。

「じゃあ、今日の午後のティーパーティは作戦会議しようか。スノウちゃんのお出かけプラン」とブランはノリノリで話し出す。

「ううん。そんなのしなくてもできるし。楽器屋に行ってみればいいだけでしょう。」とスノウ。

「いやいや、あんたの小心者具合を知ってるから、これくらいしないとだめなのよ。無計画で予定外のことがあるとパニックになるでしょう。いろいろ考えるの。だめだったことも、必要以上のこともそれくらいでちょうどなんだから」とブランはスノウのことなら何でも知ってる顔で話す。

「そうなんですか。私は居候の身ですから、皆さんに従うのみです。私の望みなど二の次で構いません。」とアランは謙虚につぶやく。

ブランはお構いなしに話し続ける。

「だって、急に何かしても、気持ちが負けてくじけて、傷つくばっかりじゃない。それを防ぐのが私の役割なんだから。もう。」すっと言い終わり、思わず立ち上がっていたことに気まずくなるブラン。そっと長いしっぽを気遣いながら座りなおす。

「うー。確かに。ピッコロおいてなかったりとか。楽器見るだけでは申し訳なくなるし。何の楽器したいのかもわかんないのに行っても意味ないし」といつもの卑屈なスノウに戻る。

「ほらね。スノウちゃんの気持ちは先取りしてわかるのよ」とブランは得意げに話す。


その日のティーパーティ。

「いいじゃない。みんなで行きましょうよ。そのほうがいいわよね」とスノウのほうを向きながらデイジーは得意の圧で語り掛ける。

「今回はアラン君とブランちゃんとで行きたい。大勢だと目立つから。」と下を向いてつぶやきように答えるスノウ。

「えー、私も見てみたかったよ」とジャムは不満そうにルビークッキーをつつく。

「私はどっちでもいいんだけど、スノウちゃんのやりやすい方法で。」

「人数はそれでいいとして、何かしたいのがあるの?」とデイジー。

「うーん。クラリネットとか、バイオリン、ピアノは興味あるかな。あと関係ないけどギターも」と意外にもしたい楽器は決まっていたスノウ。

「なんだー。したい楽器あるじゃん」とジャム。

「うんでもね。できるか心配。買ってもしなかったら無駄だし。」と得意の起きもしない未来についてつらつらと語りだすスノウ。

「でもさ、手に取ってみるだけでも違うじゃない。最初から成功なんてハードル高すぎよ。」とデイジー。

「でもね。。。」とスノウはなんだか腑に落ちない。

「とりあえず、あとは天候の心配だな。」とアランが口を割る。

「そうそう。雨だとなんだか嫌じゃない。雨雲さん勘づいてついてくるかもしれないし。」とジャム。

「いやいや。雨雲さんだって、暇じゃないんだからしょっちゅう私のところに来ることもないよ。それにでかけるのに天候はあんまり心配してない。行くと決めたら行くもの」とスノウ。

「そうだ。スノウちゃんやりたいことは絶対やるもんね。どんなことでも。」とデイジー。

「うん。気が済まないんだもん。」とスノウはもじもじしながら言う。

「あとはいつ行くかだけど、ブランちゃんはいつがいい?」とスノウ。

「私は、雨が降らなほうがいい。だって毛が濡れるんだもん。」とブラン。

「そうね、私の都合ばかりでごめんね。」と突然弱気になるスノウ。

「アラン君は?」と一応聞いてみるブラン。

「僕はいつでもお供します。」とアラン。

「いやいや、アラン君がピッコロ触ってみたいって言ったからでしょう」と笑いながらデイジーは目くばせする。

「雨雲さんの予定ってわかる?」とブラン。

「スノウちゃんのそばにいたいから、高確率でついてはくるけど、サニー祭りの時は来ないんじゃない?」とデイジー。

「それって来週?」とスノウ。

「直近でよかったね」とブラン。

「うん。じゃあその日行こう」とデイジーが総括し、みんなが納得した。

そういうわけで、楽器屋に向かうことを決めた一行だった。


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