第31話 天魔戦争

 昼にしては重いご飯を食べて食器を食洗器にかけて自室に戻った。

 先に仕掛けていたティーセットは、何処に仕舞うものなのか分からなかったので、食器棚の似たようなものが置かれて居る場所に適当に入れておいた。


 彼女が少し食べきれなかったので残りは僕が食べた。重いよね・・・そのメニュー。

 朝食は王様のように、昼食は王子のように、夕食は貧民のように食べなさいという海外の格言があると聞くけれど、王子でも昼にトンカツとステーキは食べないんじゃないかな?


 トンカツとステーキのメニューの意味も教えた。野球に試合前日に食べていたメニューと聞いてすごい関心を持っていた。そんなに面白い話かな?


 午後も勉強に集中しているとふと目線を感じたので顔をあげた。そしたら彼女が僕をジッと見ていた。


「どうしたの?」

「すごい集中力だなって思って」

「そっちも同じじゃない?」

「そうなんだけど違うの」

「何が違うの?」

「鬼気迫るというかなんというかそんな感じがするの」

「えっ?怖い顔してた?」

「ううん・・・凛々しかったよ」

「それなら良かったよ」

「うん・・・」


 彼女もすごい集中してたと思うけど何が違うんだろう。


「野球をしている時の顔だなって思ったの・・・」

「えっ?」

「小学校の時の野球で打席に立った時にバッターを見ている時の顔だったの」

「試合見に来た事あったっけ?」

「うん・・・近くで試合があると聞いた時は見に行ってたよ?」

「知らなかったよ」

「集中してたから声かけられなかったんだ、それにクラスではやし立てられると思って試合が終わったら帰って居たから」

「そうだったんだ・・・」

「うん・・・」


 小学校の頃はまだ目がそれほど悪くなかったとはいえ、バッターボックスに立った時の顔が見える程近くで見ていたなら近くで見てたと思うんだけど、僕ってそれにも気が付かないほど集中してたんだな。


「学校の授業の時にはそんな表情はしていないの」

「まぁそうかな・・・」

「でもギターの練習をしている時はその表情をしているの」

「うん・・・」

「私がアイ君を好きになった時の表情だと思う」

「そうなんだ・・・」

「試合を見た日からいつの間にか目で追ってたんだよ」

「気が付かなかったよ」


 なんかとってもいい雰囲気な気がする。親父ならイケると思ってお袋を押し倒していそうだ。いや・・・でもそうではないよな・・・うん・・・違うんだ。


「ありがとう・・・」

「どうしたの?」

「好きになってくれて」

「私もありがとう」


 彼女がずりずりと僕に近づいてきてピタッと僕に寄り添った。

 あれ?これ本当にイケるんじゃね?えっ?良いの?でももう両親が帰って来てもおかしくない時間だしダメだよな?えっ?イケる?でも・・・。


 脳内で物凄くイケイケな天使と慎重な悪魔が喧嘩していたけれど、どうにか慎重な悪魔が勝ってくれていた。

 ふぅ・・・あれ?彼女の顔が近くね?あれ?キスしてね?あぁぁぁぁぁ床に押し倒してね?


「あ・・・ごめん・・・」

「ううん・・・嬉しいよ」


 あぁぁぁぁぁぁ、天使と悪魔が両方でGOサインを出している。頑張れ悪魔!負けるな悪魔!イケイケ天使の誘惑なんかに負けるんじゃない!


「ただいま~」

「おう!ヤッてるか愚息!」


 た・・・助かったぁぁぁぁ。

 おい・・・天使と悪魔・・・今2人で舌打ちしなかったか?

 天使の顔が親父に、悪魔の顔がお袋に見えたんだがどういう事だ?

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