第30話 何に勝てと?

 カキカキと勉強に集中している。

 こういう時に真面目に勉強する態度が出来ず、この人って将来性無いんじゃと疑われてはいけない。だから今までの授業の範囲で躓いている部分を聞いていき、それが分かったらその例題を解いていくといった事を集中して繰り返していった。そう予備校の講師相手にやっていた手段と同じやり方だ。あの時よりすぐに彼女に聞けるので非常に効率が良い。だからどんどん進んでいってくれた。

 彼女から僕に聞く事は無かった。彼女は自分の復習をずっとやっている。僕にスラスラ教えるぐらいに出来るのに、さらに復習で厚みを増していくんだ、勝てないよなと思う。


 彼女がしているのは学校で配られた教材ではなく自分で買ったという参考書だ。例題を解き、分からないものを教科書で調べていく。まだ学習していない範囲があってもそれを解いていく事が学校の授業の予習になっている。僕も同じ事が出来るようにとりあえず現在の自分に足りない部分を塞いでいくしかない。


 一息ついた所で時計を見ると既にお昼の時間になっていた。彼女は集中して参考書と格闘している。ズレた眼鏡を直す仕草が可愛すぎる。


「お昼時間になったけど好き嫌いとかある?」

「あっ・・・えっ?ああ・・・うん・・・無いよ?」

「何かありそう」

「えっ?あ・・・えっ?」

「正直に言って」

「うん・・・グリンピースとコーンが苦手なの・・・」

「あはは・・・分かった・・・お袋の用意した料理にミックスベジタブル使われてたら違うものにするよ」

「えっ?えっ?食べれはするからそのままで良いよぅ」

「あはは・・・」


 取り合えず彼女とキッチンに向かった。

 冷蔵庫を開けるとトンカツとビフテキの乗った皿が二人前ラップをかけられて置かれて居た。

 これは「敵に勝つ」を意味するメニューらしく、野球の試合がある前日によく作ってくれたものだ。何に勝てと言うのか?彼女は敵じゃないよ?味方だよ?それにカツもステーキも出来立てだから美味しいんであって、チンしても味が落ちちゃってるよ?


「カツとステーキ?昼からすごいメニューだね」

「ああ・・・うん・・・食べる?」

「えっ?うん・・・」

「分かった」


 付け合わせはキャベツの千切りと人参のバターソテーと焼きピーマン。ステーキソースは自作のシャリピオンソースが置かれて居るけど、カツはトンカツソースで食べろって事だよな?カツもステーキも切れ目が入っていてお箸で食べれるようになっているからご飯はお茶碗でいいよな?

 カツとステーキが乗った皿を冷蔵庫から取り出すと、下にカップスープの素が敷かれていた。あぁ・・・お湯を注いで飲めって事ね。

電子ジャーを見ると戸棚にパンもあるよとお袋の字で書かれた張り紙がされていた。


「パンもあるみたいだけどどうする?」

「ご飯でいいよ?」

「了解」


 彼女に給湯ポットでカップスープを作って貰い、僕が敵に勝つプレートをレンジにかけて電子ジャーからお茶碗にご飯をよそおうとして、ふと考えて聞いてみた。


「お箸で良いよね?」

「お箸が良いとおもうよ?」

「そうだよね」


 いや・・・ステーキハウスみたくお皿にご飯よそってナイフとフォークで食べる系を考えてるかと思ってさ。


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